法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

どうしてもハフポストは『月曜日のたわわ』問題に沈黙してはならない、などと主張する人々の情熱がどうもよくわからない

ちなみに私自身は「リベラル」を自認こそしていないが、十年以上前に「思ったまま反射的に返信するのではなく、情報を発信しない自由を念頭におくべきだろう。表現や言論の自由には、黙殺する自由もふくまれる」と批判対象へ呼びかけ、相手が反論することを義務とは思っていないことを明言したことがある。
昨日の今日で消すのは、さすがにどうかと思った - 法華狼の日記
どのような問題を報じるかの選択も、たいせつな表現の自由のひとつだ。もちろん、そうした選択に対する批判もまた自由である。


さて、日本映画界で新たに露見した性加害問題をハフポストが報じていない、という批判のなかに陰謀論が見受けられる問題*1の件である。
ハフィントンポストが「温」の性加害を無視しているという陰謀論の後日談 - 法華狼の日記

[B! メディア] ハフィントンポストが「温」の性加害を無視しているという陰謀論 - 法華狼の日記

id:tanglejar 結局、ハフポストが園子温よりたわわを重視しているという結論はその通りで笑った。/黙っているのは差別への加担と同じと言い出したのはリベラル陣営だからなあ……。

題材を選べば、虚構の性加害が記事化されず、現実の「リベラル」が記事になっているという対比もできる。それゆえ「園子“温”」と「“温”泉むすめ」を対比するタイトルにした。

ひとつずつの有無を比較して偏向を見いだすtanglejar氏の理屈は、世界中のあらゆる問題を記事化しないかぎり成立してしまうのだ。

上記エントリに対して、ツイッターで「とむ(ミミズクのほう)@tomsdiner1」氏が異論をとなえているのを見つけた。


「ひとつずつの有無を比較して偏向を見いだすtanglejar氏の理屈は、世界中のあらゆる問題を記事化しないかぎり成立してしまうのだ。」

はいはい藁人形
「『黙ってるのは荷担』、そうですよね?」
って聞かれてるんだから、それに答えればいいだけの話

最初に引いたコメントもふくめ、傍観も加担にあたるという考えは、同じ場にいて黙認するような態度を指すのが一般的だろう。似たような啓発作品を紹介するハフポスト記事を見つけたが、やはり加害の現場にいる人々についての呼びかけになっている。
日常で起きる性暴力に対してできること。あなたは『行動する傍観者』になれますか?(動画) | ハフポスト NEWS

すれ違いざまに胸を触られる女性、ナンパを迷惑そうにしている女性…。目の前で、性暴力やそれに近い行為が行われているのを見かけたら、あなたはどう行動しますか?

『#ActiveBystander=行動する傍観者』になろうと呼びかける動画が、10月11日の国際ガールズデーに合わせて公開された。

たとえばハフポストの取材時に目前で監督がハラスメントをおこない、それを黙認したならば批判されても当然だろうとは思うが、今回はそのような事例ではない。
告発された報道をすぐに後追いすべきという意味が一般的だとは思えない*2。後追いする立場から自戒のように語ることなどはあるだろうが、すべての問題を知った瞬間に批判すべきという主張は見た記憶がない。いったいハフポストのどの記事でそのような主張がされていたのだろうか。


そして、あらゆる問題に声をあげなければならないという主張は、園子温監督らの問題も報じるべきという主張にはなるが、すでに日経広告*3の問題を報じていることを対比する意味はまったくない。
むしろ、日経広告に関連する問題も報じていくべき、という結論にもつながる。それどころか園監督の性加害を報じているメディアもそうでないメディアも、日経広告の問題を報じるべきという主張にもなる。ついでにエントリで言及した「温泉むすめ」周辺の問題を報じるべきという主張にもなるのだ。
はてなブックマークのtanglejar氏や、そのコメントにはてなスターをつけた人々、そして今回の「とむ(ミミズクのほう)@tomsdiner1」氏は、表現の自由から選択の自由を排除する意味を本当に理解できているだろうか。


ちなみに日経広告から広げて、『月曜日のたわわ』について論じたいならば、ハフポストは過去にショートアニメがYOUTUBEから削除されたことも報じていた。
「月曜日のたわわ」公開当日に削除 YouTubeと原作者のコメントは...【UPDATE】 | ハフポスト NEWS

なお、YouTubeのヘルプページでは「性的コンテンツを含む動画のほとんどを許可していません」として、以下のように記載している。

ポルノなどの露骨な性的コンテンツは許可されません。フェティッシュを含む動画は、問題となる行為の過激度に応じて削除されるか、年齢制限を設けられます。ほとんどの場合、暴力的、生々しい、侮辱的なフェティッシュYouTube では許可されません。

記事内では作品内容への価値判断は明確にはおこなっていない。google広報からの個別回答拒否コメントや、原作者名義の新たなアップロードに対する原作者からの否定コメントなどを紹介して終わっていた。
判断が不透明であっても規約ならばしたがうという判断も自由ではある。しかし今回の日経広告にまつわる反応と比べて、作品そのものが強制的に制約されたというのに、反発が少ないことは印象的ではある。

*1:念のため、すべての批判を陰謀論と考えていないことは、陰謀論的な表現をさけた要望をひとつ引いて、「不当なものとは思わない」と評することで示した。ハフィントンポストが「温」の性加害を無視しているという陰謀論 - 法華狼の日記

*2:現実には、告発を受けて改善にむかう動きをいくつか報じている。 橋本愛さん、映画業界の性暴力をなくすことを訴える。「被害者の声を聞いてムーブメントを起こしていくことが大切」 | ハフポスト アートとカルチャー

*3:漫画作品そのものではなく、広告表現にしぼった批判が主軸である以上、本来なら作品名よりも媒体を重視して記述するべきだろう。