法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

呉座勇一氏と北村紗衣氏の和解金をめぐって、オープンレター以上に大変な事態になるのでは?

先日に疑問をもった下記の論点について、インターネットの反応を調べていたところ、おそらく謎がひとつ解けた。
呉座勇一氏を支援している労働組合委員長のブログエントリを読むと、女性差別の認識は危ういものを感じる - 法華狼の日記

新世紀ユニオンの、3月31日の下記エントリがはてなブックマークを集めていた。
脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構・日文研! - 委員長の日記

違法解雇の発端は歴史学者のG先生のカギ付きアカウントの(ツイッターでの)「つぶやき」で、相手の名前を出さずに皮肉っていたことでした。これを実名で公表したのは「被害者」側でした。自分で差別発言だと実名を出し、社会化した場合、普通慰謝料は請求できません。

まず、この書き出しでいきなり首をかしげた。記憶では被害者は慰謝料を請求していなかったはずだが、いったい何を主張したいのだろうか。

そもそも、大同小異のエントリがならぶ新世紀ユニオンのブログから、新情報がさほど書かれているわけでもない3月31日のエントリがなぜ注目されたのか。
ツイッターの反応を検索したところ、何人かの著名人*1が注目していることに気づいた。
http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html - Twitter Search


まず漫画原作者の喜多野土竜氏のツイートが目を引いた。呉座氏による誹謗中傷が発覚したことを受けて、北村氏らの発言を歪曲して広めるnote記事*2を書いていた人物である。


え? 某坊センセー、G先生から和解金まで取ってたの? その上でオープンレターで攻撃って、クリミア半島分捕って、東部2州寄越せのプーチン大統領の手法じゃん? てか、G先生側の弁護士、無能すぎない?

脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構日文研http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html

しかし新世紀ユニオンのエントリでオープンレター「女性差別的な文化を脱するために」*3と和解にまつわる事実関係の記述は下記のみ。

G先生は、被害者に謝罪し、雇い主の懲戒処分(1か月の停職処分)を受け、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証も降板し、社会的制裁も受けています。また被害者側との和解が成立しているのに、その後もオープンレター側の個人攻撃が続き、とうとう解雇されたわけです。

おそらくこの組織は、オープンレターの運動とリンクしていた脅迫状や電話による解雇要求にうろたえて、圧力に屈したのだと思っていました。

念のため、北村氏と呉座氏が和解したのは2021年7月、オープンレターからずっと後のことだ。
さすがに新世紀ユニオンも時系列で虚偽は書きたくないのだろう、「オープンレター側」や「オープンレターの運動とリンク」と表現して、オープンレター自体が和解後の攻撃として出されたとは書いていない。
同じように「和解金」についても「慰謝料」が不要と主張する記述で、嘘をつかないように誤った印象をつくりだしたのかと思った。しかし喜多野土竜氏のツイートを見ると、下記ツイートがぶらさがっていた。


>G先生は、被害者に謝罪し、雇い主の懲戒処分(1か月の停職処分)を受け、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証も降板し、社会的制裁も受けています。また被害者側との金銭解決での和解が成立しているのに、その後もオープンレター側の個人攻撃が続き、とうとう解雇されたわけです。

先に引用した記述とは「金銭解決での」の有無が異なっている。
たった一言の違いだが、先に説明したように一般に知られている和解条件に慰謝料などのくだりはなく、たしかに注目されても不思議ではない。
インターネットアーカイブで確認すると、3月31日23時ごろまで「金銭解決での和解が成立している」と記述されていたことが確認できた。
脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構・日文研! - 委員長の日記
ほぼ丸一日、呉座氏が北村氏へ和解金をしはらったと説明され、その記述が多くの人々に注目された後、なんの説明もなく削除されているわけだ。


慰謝料の請求ができないという新世紀ユニオンの主張は、おそらく金銭解決したという記述と対応しており、一方だけ残った結果として意図がわからなくなったのだろう。
もちろん謝罪だけでなく金銭によって和解することが悪いとは思わないし、あくまで環境を批判するオープンレターは一個人との和解でとりさげるような内容でもない。
しかし喜多野土竜氏のように、もともと北村氏らを非難してきた人物は、この新たな情報が重ねて非難できる根拠になると考えたようだ。


他にも中世史家の鈴木小太郎氏*4なども、3月31日エントリの記述を引いて、呉座氏が不要な謝罪をおこない不当な攻撃をうけているかのように論じていた。


「G先生は、被害者に謝罪し、雇い主の懲戒処分(1か月の停職処分)を受け、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証も降板し、社会的制裁も受けています。また被害者側との金銭解決での和解が成立しているのに、その後もオープンレター側の個人攻撃が続き、とうとう解雇」
http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html
「北村様」は呉座氏にあの屈辱的な謝罪文を出させただけでなく、金まで取っているのか。それでもオープンレターを撤回しないとは。

新世紀ユニオンの表現のためかオープンレターと和解の前後関係を混同しつつ、削除された記述をそのまま信じて北村氏を非難しているツイートは他にも複数ある。


驚いた、呉座先生は和解金まで支払ってるのにその後オープンレターの個人攻撃まで受けてたのか。解雇する日文研も十分おかしいけど、金を受け取ってるさえぼう先生も社会通念に照らし合わせておかしいよ。それで運営のザツさを指摘されての恥を知れ…ありえないでしょ http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html


「被害者側との金銭解決での和解が成立しているのに」

4/4で公開終了の例のオープンレター、謝罪だけでなくお金も払っていたのにあの仕打ちなのか........オーバーキルがすぎるのでは

脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構日文研http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html

時系列は把握しているが、オープンレターが呉座氏個人を対象としていないことは把握できていない反応もある。


>被害者側との金銭解決での和解が成立しているのに、その後もオープンレター側の個人攻撃が続き、とうとう解雇されたわけです。
http://shinseikiunion.blog104.fc2.com/blog-entry-3546.html

金銭解決してたのに、オープンレター公開し続けてたの?
ちょっとヤバイでしょ。


ツイッター以外では、はてなブックマークを再確認すると、id:yondakakuyo氏が新しいコメントで指摘していた。それ以前に言及している人物はおらず、なぜ注目されていたのか理解できなかったわけだ。
[B! ハラスメント] 脅迫・圧力に屈し違法解雇を行った人間文化研究機構・日文研! - 委員長の日記

当初は「(某先生)と金銭解決した」と書いてあったらしいが消されてる。

他に、北村氏らが誹謗中傷*5されている5ちゃんねるの個人スレッドでは、「>>142」以降に話題となり、「>>145」と「>>146」の会話から新世紀ユニオンのエントリが初出の情報とわかる。
【saebou】 北村紗衣 ★17【@Cristoforou】

被害者との金銭解決って北村先生は金貰ってるのか。
確定申告はしっかりしているのかな。

また、「>>153」が「新世紀ユニオンの人、金銭解決についてバラして大丈夫?」と書き、和解を破棄してでも公開するしかないと呉座氏が考えたのではいかと「>>159」が憶測していた。

バラさざるを得ないと判断したんでしょ(´・ω・`)
和解破棄になってもやむを得ないと呉座先生がハラを括ったのかもね。

そうして現在まで新世紀ユニオンの新しいエントリなどが論評され、4月2日にも「>>226」が和解金を前提に書き込みをしているが、根拠の記述が変更されている話題は見つからない。


なぜ新世紀ユニオンがエントリの記述を変更したのか、参考になりそうな情報は見つけられなかった。
和解の事実関係も第三者からうかがいしることはできない。呉座氏が謝罪文をのせたエントリは削除され*6、北村氏が転載したエントリも簡単な報告のみ。
呉座勇一さんより謝罪文が出ました - Commentarius Saevus
本当に慰謝料がしはらわれたのか。その情報は和解で制限されなかったのか。制限されていなかったなら、なぜ今まで情報が公開されなかったのか。ひとつの謎が解けたかわりに、新たな疑問が増えてしまった。
しかしもし、新世紀ユニオンが事実とは異なる記述をしていたのなら。あるいは被害者を和解に反して傷つけるような記述をしてしまったのなら。それを信用して流布して北村氏を非難したことに責任はないだろうか。


オープンレターは強制力のない署名活動にすぎず、明らかな事実関係の誤りもなければ、特定個人へ処分や謝罪を求めているわけでもない。それでも個人攻撃であるかのように解釈して責任をもとめる人々が少なくなく、呉座氏も訴訟を起こそうと動いた。
そうした人々もしくはその周辺が、新世紀ユニオンの記述を信じて個人攻撃をおこない、それが誤りだとわかったなら、自身が求めた態度を体現できるだろうか。もしエントリの記述が誤っていたなら、その過ちはオープンレターと比べるべくもない*7
女性差別の矮小化をはかるエントリなども考慮すれば、オープンレターを批判すべきと考えて動いた人々は、それ以上に新世紀ユニオンのブログを批判しはじめることだろう。

*1:今回の本題である記述の異同部分には言及していないが、江口聡氏も拡散に参加していた。誹謗中傷を「皮肉」と弱めて表現しているような筆致は気にならないのか。

*2:北村紗衣・北守・牟田和恵・古谷有希子各氏の過去発言|喜多野土竜|noteのことだが、翻訳エントリの削除を「削除しただけでは、撤回ではなく証拠隠滅に見えますね。謝罪もしていないだろうし。あ、個人的な感想です」とうたがっている。著作権の問題で削除したという情報が提供されたことは追記しているが、翻訳やコメントの意図は「この件に対する北村准教授のコメントについては、どのような意図があったかは現時点では不明です」と、よく調べないまま歪曲した解釈を流布している。実際の意図や経緯は北村紗衣氏の発言を紹介した記事がわかりにくい件 - 趣味は検索でくわしく検証されている。ちなみに古谷有希子氏に対しても「慰安婦問題や南京事件については、これまた形式論・手続き論・数の問題で議論が分かれます」などと、民間人を大量虐殺する攻撃に正当性がないと主張できる人物が、同じツイートで大日本帝国の悪行に対して「悪の定義とは?」と主張する謎 - 法華狼の日記で批判した人物と同じ過ちをおかしている。

*3:4月4日に削除された。 女性差別的な文化を脱するために

*4:今件にかかわりそうな問題として、佐藤信弥氏を侮辱していた記憶がある。

 また、第三者の北村氏への謝罪を無にするようなツイートをおこない、その第三者から矮小化をやめるよう願われると、今度はその第三者の過去をもちだすような人物でもある。

*5:たとえば、「>>197」以降、石川優実氏の高裁勝訴に不満をいだくような書き込みが複数あり、特に反論もされていないような空間なので、あくまでインターネットの反応の記録としての意味しかないが。そもそも「>>245」や「>>297」のように、東大関係者や弁護士の神原元氏の存在をもって、北村氏の背後に「しばき隊」を見いだすような、関係性を知っていれば失笑するしかない空間である。

*6:[B! 呉座勇一] 北村紗衣様への謝罪文 - 呉座勇一のブログ

*7:オープンレターの明らかな過ちというと、一般的な署名活動と同じくらいの脆弱性くらいしかないと思っているが。その改善案のひとつはコメント欄を参照。 不正署名されたオープンレターと不正署名したリコールを同列で考えるのは、いくつもの意味で間違っている - 法華狼の日記