法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『炎のらびりんす』

サムライを気取って大学にかよう青年ガラン。そこに葵という少女が特別な刀をエサにしてガランを屋敷へまねく。ガランをしたう少女の思惑と、刀をねらう美女たちの戦いがスラップスティックに展開されていく……


お色気シリアス海洋SF『Aika』のスタッフによる、山田風太郎というより艶笑譚のような時代劇活劇。2000年にOVAとして全2巻で発売された。

ナジカ電撃作戦』以降に簡素化していく以前の、頭身が高く艶っぽいキャラデザインが魅力。作画もコミカルで良好、絵柄の変化などもあわせて当時に絶頂だった大地丙太郎作品を思わせる。
活劇らしい見どころは上巻冒頭の背景動画アクション。どうやらシリアスな当初企画のなごりらしく、描き込みすぎないモノクロ表現もあわせて絶品。クレジットから判断すると田中良作画だろうか。


キャラクタードラマとして意外なほど現在でも楽しめるモダンぶり。
女性キャラクターは艶やかに整って作画されているが、良くも悪くもバカっぽい印象が強め。女性キャラクターの誰もが素直に欲望に殉じて力強く行動するし、やっていることがトンチキ忍術妖術合戦なので、露出度の高い姿が多いわりにエロティックな印象があまりない。
普通ならハーレムになりそうな主人公は、ひとりのヒロインがしたうだけで、戦いでも状況に流されながら孤軍奮闘するシチュエーションが多い。


しかし全体がギクシャクして設定を活用できてないところが多く、『Aika』と比べて埋もれてしまったことも理解できる作品ではある。
頭をからっぽにして楽しむことも意外と難しい。ツッコミがだらだら説明的で鈍いため、ギャグがつめこまれているのにテンポが悪い。異常に流血ギャグが多いことにもとまどった。DVDブックレットを見ると、制作当時のギャグアニメのテンポについていけないという西島克彦監督が、意識的に3~5年ほど古く見えるコメディをやろうとしたとのこと。
後半でちらっと無国籍社会になった歴史的経緯の設定が説明されるが、そこまで全体的に話の土台がはっきりしてなくて、悪い意味で1980年代のOVAのようでもあった。なんでもできる状況は何をしたらいいのかコンセプトをはっきりしないと、楽しむためのとっかかりが足りない。一応、争奪対象の剣というマクガフィンは一貫しているので、物語を追っていくことはできるのだが。


そもそも先述のDVDブックレットを読むと、時代劇というコンセプト自体がプロデューサーに与えられたもので、監督は『Aika』と差別化するためにコメディに寄せて格闘ゲームのような無国籍にしたという。
ロシアへ逃げるように移住した徳川家の関係者が独立閉鎖都市に住まわされた設定は、日本人が遠い国からは今も侍の国と思われているような誤解を、ロシアに対して逆転した意図があったという。キャラデザインと作画監督を担当した山内則安が若いころは北海道に住んでおり、ミグ戦闘機亡命事件の印象でロシアへの興味関心から来たともいう。
そうしたシリアスな背景は作品にこめたほうが、大地監督アニメのように物語の芯がとおっただろうし、たぶんギャグもきわだったろうと思うのだが。