法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』○○のおかげで助かりました

ミャンマーのドキュメンタリーをはさんで、米国ふたつの災害ドキュメンタリーを紹介。範囲はせまかったが、カトリーナの逸話は映画化できそうと番組最後に北野武がコメントしたように、ノンフィクションのディザスタードラマとして見ごたえあった。


最初に紹介されたのは山火事が定期的に発生する南カリフォルニア。刑務所に収監されている犯罪者が消防隊員として活動している。
乾燥した大地は、自動車を荒野に放置しているだけで底部のガソリンタンクが熱せられ、爆発炎上してしまう。だから山火事がたびたび起きて、風によって広がっていく。
囚人たちは主に破壊消火……江戸時代の火消しがやっていたように燃えそうなところをあらかじめ壊したり、先に草原を焼いて後の延焼を防いだりする。出動は14時間を超えた。
危険な任務につく囚人消防隊は被害者の感謝などで自己承認をえて、刑期が少し短くなる。ギャングや強盗などの凶悪犯ばかりだが、さすがに放火犯などは除外されるとのこと。
また番組終了後に報道記事を読むと、囚人にとっては自由意志で服役囚としては高額な仕事だが、だからこそ危険な仕事をやりがい搾取しかねない問題もありそうだ。
www.afpbb.com

 カリフォルニア州副知事のポジションに意欲を示すガイル・マクラフリン(Gayle McLaughlin)氏は、受刑者の消火プログラムを非道な労働力の搾取だと非難し、「無給あるいはそれに近い賃金で人々を働かせるのは、奴隷として扱うのと同じ。断じて容認できない」と語気を荒らげる。
 しかし当の受刑者たちは、わずかな賃金で重労働を強制されているといった感覚はないと主張している。実際に彼らが受け取る賃金は、カリフォルニア州の受刑者としては最高額なのだ。

そこで2020年9月にニューソム知事が、元犯罪者が消防隊に入れない規約をあらため、囚人消防隊から正規の消防隊員になれる法案に署名したという。
www.tokyo-np.co.jp
新型コロナ禍により罪の軽い囚人を釈放したことで、囚人消防隊の人数が不足したことも一因だが、これで更生の選択肢が広がるかもしれない。


仏教が深く信仰されているミャンマーポンペイン村では、一年前に来た僧侶が家々に個人で電気を引く活動をしている。
政府の手が回らないため、電柱を森から切り出させて、牛をつかって運び出す。水がたまって根が腐らせないよう斜めに切らせたり、牛車の中心にバランスよく乗らせたり、川をせきとめて水路をつくらせてタービンを回して発電したり、僧侶の指導は細かく多岐にわたる。
電気代は月170円と現地では高額だが、同じ照明代のロウソクと比べて1/3ほどで、転倒による火災の心配もない*1。若い夫婦が初めて家についた電灯に喜び、亡くなった親に見せてやりたかったと感慨深げに話す。
文化的に信頼される宗教家が、弘法大師のように万能の知識人として求められる文明。そのひとつのありかたとして興味深いドキュメンタリだった。
もちろんロヒンギャの迫害を仏教が加担していることや、現在のクーデターと宗教の関係にも思いをはせずにいられなかったが……


2005年に米国ルイジアナ州を襲った最大級のハリケーンカトリーナ」。水没したアパートで孤立した244人を黒人の元海兵隊員が助けた逸話を紹介。
ジョン・ケラーという男は海兵隊を辞めた記念のパドルをつかって、カヤックをこいで水没した街を進む。離れて暮らしている母親を探しにいったが、家は水没しており、聞き込みしても見つからなかった。
アパートの屋上へ黒人のギャング数名が火事場泥棒のように集まったが、ケラーは拳銃にひるまず徒手空拳で倒して、残りのギャングは逃げていった。
やがて周辺から避難者が鉄筋コンクリート造りのアパートに集まり、170人ほどの住民が244人の大所帯に。もちろん食糧は底をついていく。ケラーは屋上に海兵隊仕込みのサインを大書きするが、ヘリコプターは物資をおろしてくれない。
ケラーは泳いでスーパーマーケットへ物資を確保しにいき、水に浮かぶクーラーボックスに入れてつなぐことで運びやすくした。災害で商店から食糧をはこびだす写真でも、白人では物資の確保とキャプションがつけられ、黒人では窃盗とキャプションがつけられるという逸話を思い出した。
カトリーナ災害でも、ヘリコプターから物資をおろされている建物を観察して、アパートの屋上に白人だけを上げたらすぐ物資がとどけられたという。ケラーもさすがに複雑な心情を語る。
ケラーはさらに医薬品を病院へさがしにいったり、患者を来させるようヘリコプター側にいわれてエアマットに浮かべて運んだり、ヘリコプターと交渉して屋上からの移送をさせたり、活躍がつづく。
最後に流れついたモーターボートを発見して、残りの200人ほどの避難者を避難所へ31時間かけて運びきった。そして後日、避難所で人助けしていた母親とも再会できたという。
ドラマチックでヒロイック、さらにレイシズムなどの社会問題にも切りこんだ印象深い逸話で、米国で劇映画化されていないことが不思議に思って検索したら、2011年に企画が報道されていた。
www.cinematoday.jp
ジョン・ケラーの生涯の映像化権を買い取り、ウィル・スミス製作にデンゼル・ワシントン主演で動いていたようだが、残念ながら続報が見つからない。塩漬けのままのようだ。

*1:ただ手作り感のある電気系統による出火が気になっていたら、実際に小さな発電所内ではショートがたびたび起こっている様子。