法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

読み切り漫画『片付けられない神様』は、日本社会が貴重な遺跡を片付けてきた問題の反映ではないか?

約1週間前に「ジャンププラス」で公開されて注目された短編『片付けられない神様』。
願いの対価に供物をもらいつづけ、ためこんで土地を広げすぎた神様が、現代社会から排除されようとする物語だ*1
shonenjumpplus.com
全体的に高評価されつつ、神様が何百年も保存している貴重な供物を、その文化財としての価値へ言及しながら捨てる描写*2が複数のコメントで疑問視されている。
[B! 漫画] 片付けられない神様 - コンドウ十画 | 少年ジャンプ+

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しかし、いくつかのコメントで指摘されているように、貴重な遺跡を土地開発のため破壊しつづけたのは現代日本における現実の問題でもある。


特にバブル景気のさなかは、せいぜい観光目的にしか利益を出せない遺跡よりも、大規模店舗の建設を優先したことがあった。
日本の考古学会をゆるがした旧石器捏造事件は、遺跡の価値を高めて拙速な土地開発をふせぎたい研究者が、過剰に意味づけした側面もある。原田実『つくられる古代史』がくわしい。
『つくられる古代史―重大な発見でも、なぜ新聞・テレビは報道しないのか』原田実著 - 法華狼の日記

研究者側も古代遺跡が潰されないために、強い意味づけに加担したり。そうした注目が集まらない遺跡は、逆に放置されたり、工事を優先して潰されたり。そもそも、日本における遺跡発掘の大半が工事に先立つ「緊急発掘」であり、「記録保存」という呼称で出土品等の記録だけ残して潰されたり、「埋設保存」という呼称で道路や建築物で上を覆われたりすることが多い。

すぐに利益をあげることはなく管理費がかかる遺物より、土地の切り売りで刹那的な利益をあげる……これはけして過去の物語ではない。
たとえば改修だけで五輪に対応する試算もしていた国立競技場が、完全に新設されることとなり、計画が二転三転して莫大な費用がかかったことも記憶に新しい。
新国立競技場問題シンポで世界のスタジアム改修事例を紹介 - ログミーBiz

工事費はこの時の試算で770億円です。これは僕が中を調べて見てたんですけど、そのうち、先ほどの地下サブトラック関係が110億円以上かかってましたので、だいたい600億円くらいなんじゃないかなあと。

現時点で先ほどからお話になってたザハさんの案で1700〜1800億円いってしまうのに比べると、1/3くらいの費用換算をこのときにはされてたようですね。

こうした問題を意識して描かれたわけではないかもしれないが、いずれにせよ切実な迫真性と、物語の説得力を感じさせる。
それが『片付けられない神様』の漫画としての良さ、力強さになっている。

*1:ジャンルも風刺性も展開も全く異なるが、フィクションならではの超常的な存在が日常的な社会ではジャマな異物にしかならない構図は、藤子・F・不二雄『鉄人をひろったよ』を連想した。

*2:シークバーで25頁。