法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ゴーストバスターズ(2016)』

新進気鋭の物理学者エリンは、大学の終身雇用枠に入ろうとしていた。しかし学生時代の友人アビーと出版した超常現象研究書が、知らないうちに有名になっていたことで悩まされる。
共著の販売をやめてもらおうとアビーの研究室へいったエリンは、そこでアビーの新たな相棒ジリアンと出会う。そして三人は街をゆるがすオカルト陰謀劇へかかわっていく……


1984年のシリーズ1作目を、ポール・フェイグ監督が2016年にリメイク*1。主人公はボンクラ男トリオからトンチキ女性トリオとなった。

最新4作目『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の公開を間近に、土曜プレミアムで地上波初放映が予定されている。
www.cinematoday.jp
旧作のアイバン・ラントマン監督は製作にまわり、出演可能な俳優も多数がカメオ出演。怪獣映画のようなクライマックスなど、見せ場の配置も旧作をふまえている。
もちろんVFXは最新のCG技術を多用しているが、霊体がスライムのように実体化するシリーズ設定はアナログな手法を工夫して*2、適度に手作り感あるビジュアルが楽しい。
そうして旧作の人気でつくられた映画と理解しつつ、全体として今作が好みだし*3、単独の映画として完成されていると思った。


まず、主人公トリオの超常現象研究者としての説得力をていねいに描いていることが良かった。同じところが1作目は導入で引っかかったし、2作目は活躍が忘れられているところに違和感があった。
hokke-ookami.hatenablog.com
hokke-ookami.hatenablog.com
今作では時間をへてオカルトに距離をとった立場から、オカルトを研究しつづける旧友と対立して、オカルトに直面した後では否定論者の研究者に指弾されたかと思えば、公的機関の認識が開示される……物語の流れにそって衝突を起こして、リアリティの線引きをくりかえす。
オカルトにコメディ映画なりに実在感があるから、対する主人公トリオの調査や対処にも説得力がある。定番のオカルトネタを「偶然」と評したりと、ディテールも意外と細やかだ。対立する人々も、意見や目的は異なれど全員が真面目で、オカルトという題材から脱線せずに物語が進んでいく。


女性たちの関係性が回復するドラマとしてもよくできていた。ケヴィンというマスコットのような電話番はいても奪いあったりせず、どこまでも異端な女性が興味をもつ研究にとりくみ、困難のなかで助けあう。
ここで誤解をおそれずにいえば、再会した旧友に新しい女がいる展開って百合なんだよな、ということを思ったし*4、その重いつながりが最高潮に達するクライマックスは溜息すら出た。
黒人の助手も、せいぜい戦いの一員くらいでしかない旧作と違って、パティはメインキャラクターとして機能している。体格をいかした戦闘はもちろん、事件の導入から歴史の知識、車両の手配まで大活躍。さらにマイノリティの立場をギャグにする余裕まであり、「ポリティカル・コレクトネス」の自由さが感じられた。


なお、コメディ要素はつまらないアメリカンジョークや下ネタの連発ばかりだが、一般人の被害者まで嘲笑う旧作のような不快感はない。ところどころの徹底的な旧作パロディは楽しい。
おまけに外見だけで採用されたケヴィンがさまざまなロゴを提案するコントは、ついつい笑ってしまった。よく考えるとケヴィンのそれは鉄拳の紙芝居のような、日本のお笑い番組で定番のネタだ。

*1:1作目と同名の邦題だが、原題は『Ghostbusters: Answer the Call』という表記もあるので、それをふまえて区別できる邦題にしてほしかった。

*2:メイキングを見ると農業用の粘着剤と天然着色料を混ぜてドラム缶いっぱいにつくり、演出意図ごとに粘度を変えている。

*3:ただギャグやコメディは時代を超えることが難しいことは留意するべきだろう。

*4:映画鑑賞後に同じような感想がないか調べて、そもそも「新しい女」を演じたケイト・マッキノンがオープンリーレズビアンと知った。