法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『岸辺露伴は動かない』 (2)「くしゃがら」

オープンカフェにいた岸辺露伴へ、なれなれしく男が同席してきた。同じ雑誌の同じ人気漫画家、志士十五だった。
失踪した編集者からわたされた禁止用語リストを志士は岸辺に見せて、ひとつの意味不明な言葉についてたずねる……


原作者本人の外伝漫画ではなく、北國ばらっどによるノベライズ短編のオリジナルストーリーが原作。元ネタや前例が露骨なこともふくめて、けっこう原作のテイストが出ている。

「牛の首」等を思わせる都市伝説的な怪談だが、前半の漫画家同士のかけあいが良い。
ボケつづける志士へのツッコミに岸辺が疲れていく姿に、傲岸不遜なキャラクターが押される痛快さがある。なおかつ創作の思想で共感する場面で実力が伯仲していること、志士だけでなく岸辺も内心ではリスペクトしていることがつたわってきて、仲良くケンカする風景が楽しい。
劇中に登場する禁止用語リストも、バカバカしい単語も多いが妥当なものもあるというリアルなバランス。そこで禁止されるにしても背景を理解して不使用にしたいという作家らしい心情から、スムーズに単語の正体さがしの物語に移行する。


後半のホラー部分はあまり感心できなくて、単語の調査にのめりこんで人格が壊れていく志士たちの演出も一本調子でつまらないが、岸辺が特殊能力で解決しようとしたクライマックスは良かった。
超常能力のメタとして「くしゃがら」が岸辺を圧倒する恐ろしさがあったし、禁止用語だから書きこもうとした文字が消えていく*1ことで物語の結末が読めなくなる。
最終的に多少の代償で解決したこともふくめて、怪奇探偵物として楽しめた。

*1:本当の禁止用語を「くしゃがら」に置きかえて映像化したというテロップオチを考慮しても、劇中でリストの紙にタイプされているはずだが、禁止用語リストという枠組みなら記述できるということか。