法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『赤穂浪士』

徳川綱吉の時代。さまざまな触書きが街角にかかげられ、反感を買っていた。
幕府内では賄賂が横行し、それを拒否した浅野内匠頭は恥をかかされ、江戸城内で刃傷沙汰に発展する……


東映設立十周年として1961年に公開された、約2時間半にわたる時代劇大作。片岡千恵蔵中村錦之助が主演し、敗戦前から時代劇で活躍した松田定次が監督をつとめた。

赤穂浪士 [DVD]

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  • 発売日: 2003/12/05
  • メディア: DVD

変化球ではない忠臣蔵も教養として鑑賞しておこうと、年末ということもあり視聴。すでにカラー化された映像で、当時の時代劇らしい絢爛豪華で広々とした情景を楽しむことはできた。
大作ということを考慮しても、制作リソースの不足を感じさせない。スタジオセットはあからさまだが広々として見ごたえがあり、特に月夜の河原はよく目をこらしてようやく背後の家並みがビガチュアと見当がつくくらいリアルだった。
しかし群像劇というにも物語の主軸がさだまらず、あらすじをなぞり名場面をつないだような単調なつくり。小説オリジナル主人公の堀田隼人も目立たず、存在意義がよくわからない。
原作も会社も監督も同じ1956年作品は、反体制色を出した新藤兼人脚本で他作品と差別化ができていたそうだが、こちらは良くも悪くも教科書的な映像化という印象だった。


少し興味深かったのが、開始10分で十手持ちが怪しい男をさがして男風呂に入る場面。男なのに男をのぞこうとする「出歯亀」と笑われる。明治時代の犯罪者という語源*1からすると江戸時代には存在しない言葉なのだが、あえて間違った考証をするギャグなのか、それとも当時の観客には違和感なく現代語訳のように聞こえたのだろうか。
もうひとつ目を引いたのが、開始1時間50分のカメラワークだ。大石内蔵助の主観視点で廊下を進み、その先に誰かの足が映り、視線をあげると因縁の相手が映る。基本的に歌舞伎調で俳優に寄った固定撮影が多い作品なので、この移動撮影は印象がきわだった。もっとも、この直後に大の男ふたりが無言で涙目になって互いの心情をおもんばかる描写は、顔アップの切り返しが延々くりかえされて、時代性を考慮しても好みにあわない演出だったが……