法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』バカ売れ!?週刊のび太/風船がとどけた手紙

OPが通常版にもどった。スタッフクレジットの変化はないようだ。


「バカ売れ!?週刊のび太」は、のび太が漫画雑誌に投稿した漫画が落選したことにはじまる。漫画をのせてくれる雑誌を求められ、ドラえもんは雑誌をつくる秘密道具を出した……
アンケート至上主義の漫画雑誌を子供スケールで風刺した短編を、意外なことに2005年以降で初のアニメ化。前後の演出を担当している藤倉拓也が、初めてコンテも担当。脚本は内海照子。
ほとんど原作に忠実で、よりディテールを濃くすることで楽しいアニメにしあげていた。手塚治虫にくわえ、あだち充高橋留美子青山剛昌の実名まで飛び出す。一応、同じ小学館で活躍する代表的な漫画家だが。
さらに原作で登場する『鉄腕アトム』と『スペースシンドバッド』を完全再現。さすがに版権が気になっていたら、エンディングで作画監督と原画の間に協力として手塚プロダクションがクレジット。
他にも構成は原作を再現しつつ、細かくディテールを足している。編集長ロボが集めるアンケートで、原作よりも多いコメントをそれらしい内容で語らせる。表紙などのグラビアにしずちゃんを起用する描写も、秘密道具で着せかえするアレンジをくわえて、水着写真をもとめて怒られる展開まで追加。
ただ、もし新型コロナ禍が完全に収まっていて冬季のコミックマーケットが開催されていれば、創刊号の悪評ぶりや在庫をかかえてしまうのび太を見て、笑うに笑えない人が時期的に多かったろうな……少し残念。


「風船がとどけた手紙」は、のび太たちが友人たちと風船で手紙を飛ばし、返事をもとめてつながろうとする。良くも悪くものび太だけは返事が来ず、秘密道具で二回目の手紙を飛ばすが……
オチが印象的なこちらも、意外なことに2005年以降で初のアニメ化。やはり原作に忠実で、ディテールを濃くしてアニメ化。永野たかひろ脚本、善聡一郎コンテ。
まず冒頭に出木杉が風船を飛ばしたエピソードを足して、宇宙飛行士との出会いまでアニメオリジナルで描写。のび太が後半で書く手紙の文章にアニメオリジナルで「宇宙」という文言が入ることの伏線だろうし、それが原作どおりのオチに見事につながる。
そもそも現在から見ると環境を破壊しかねない物語に、骨川父の協力をえて、土に返るエコな風船と説明して引っかかりをつぶしている。テレビ局でひろってもらおうとしたアイドルは、いかにも秋元康系グループな集団がデザインされている。
サッチャーならぬミッチャー首相のかわりは、いかにもトランプ大統領をモデルにしたような名前と髪型のトランポリン大統領*1。風船ひとつにシークレットサービスが銃撃で対応しそうな過剰防衛感がリアルといえばリアルか。
秘密道具の風船視点のカメラも、テレビ局に向かった時につかまえた人物を見るため苦労してインパクトを増したり、オチで風船をつかまえた存在の恐怖感を不安定なカメラワークで演出していた。
原作通りの想像にたくしたオチも語りすぎず*2、理想的なアニメ化だったと思う。

*1:放映時には大統領でなくなることは明確だったが、アニメ制作時にはバイデンが大統領にならない可能性はゼロではなく、トランプが大統領だったことがあるのは事実なので、特に奇妙なわけではない。

*2:異星人が饒舌に語るのは微妙だが。