法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 Season19』第7話 同日同刻

2年前の強盗事件の犯人が床下から死体となって発見される。そのころ別件でとりしらべられていた男が、妊婦を階段からつきおとした事件の犯人と自白する。
しかし獄中の遠峯が、自白した男は妊婦転落と同時刻に別の場所で子供を助けていたと証言する。そうなると男は妊婦をつきおとした犯人ではないはずだが……


山本むつみ脚本。他人を心理操作する能力をもった遠峰小夜子によって、複数の事件関係者が踊らされ、真実をあばかれていく。初登場回から一貫したキャラクターだ。
『相棒 season17』第6話 ブラックパールの女 - 法華狼の日記

犯罪者が檻の中から刑事をあやつって、ひとつの事件の真相をあばく。その動機が道義心なのか好奇心なのか優越感なのか、視聴者に悩ませる。そんなパターンの物語。

特命係は反発するが、真実をあばいて人間の本性をむきだしにする点において、遠峯は究極的に名探偵らしい。今回ににおわされた幼少期の出来事も、その人格を象徴している。
事件そのものの謎解きもいりくんでいて面白い。ふたつの事件の関連性は偶然でしかないし、強盗事件の謎解きは子供の位置づけに少しひねりがあるくらいだが、転落事件を推理する手つきはいい。通報の順序のおかしさから、傘を持っていたかどうかの着眼点、そして雑誌に掲載された写真の意外な手がかりまで、本格推理らしい切れ味があった。そこで隠されていた人間関係は前回*1に近いが、ずっとうまく隠しているし、さらなる犯罪をあばく展開につながった。


ただ残念だったのが、真相を追及された犯人が高笑いする安直な演出。遠峯に操られた人間の薄っぺらさを表現する意図的な安っぽさかと思えば、淡々と特命係と会話していた遠峯もまた高笑いする。
安易なキャラクターも様式美と思えば許せることも多い私だが、さすがに今回はしつこすぎて、「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」で定番の批判に同感せざるをえなかった。
『劇場版MOZU』 ストーリーはほぼ不明。悪役という悪役が笑う。ヒャハハハ、キャッハー、ウヒャヒャ。ほぼ全員が「中学生が考えた悪党」 (柳下毅一郎) | 柳下毅一郎の皆殺し映画通信

何度も何度もくりかえしくりかえし語っているのですでにみなさん耳にタコができていると思うが、ぼくが映画の悪役でいちばん憎んでいるのは「さあゲームのはじまりです」という奴、二番目は「ヒャハハハハ!」と笑う奴である。しかるに本作、悪役という悪役が笑う。ヒャハハハ、キャッハー、ウヒャヒャ。

ちょうど今年に放映しているスーパー戦隊シリーズの敵幹部ヨドンナが、感情の薄い非人間だからこそ意識的に高笑いを演じるキャラクターだ。様式美に満ちた子供向け特撮に比べても時代遅れなのがつらい。