法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スパイダーマン:スパイダーバース』

黒人の少年マイルスは、警官の父に反発して自由人の叔父を尊敬し、ストリートアートで自由を謳歌していた。ひょんなことからマイルスはスパイダーマンに近い能力ももつ。
そしてマッドサイエンティストが作りだしたパラレルワールドから、性別も年齢も次元も異なる別々のスパイダーマンがあらわれて、マイルスは秩序を回復する戦いをはじめるが……


ソニーピクチャーズによる2018年の米国映画。異なる世界観のヒーローを3DCGでひとつの空間に同居させ、彼らに導かれて少年がヒーローとなっていく物語を描きだす。

1年前に鑑賞した『ヴェノム』*1の、エンディング後に流れた予告映像が本編とどのようにつながるのか、ようやく確認できた。この作品のエンディング後に流れる手描きアニメも、安っぽすぎる意外性が逆に楽しい。


物語の本筋では、能力も人格も完璧なアメリカンヒーローが失われ、その空隙をうめるように少年が身の丈をのばしていく。そんな成長劇をていねいに段階をふんで進めつつ、ちゃんと映像と物語に目新しさがあった。
パラレルワールドでは失われなかったかわりに孤独に衰えていったアメリカンヒーローが、しぶしぶ主人公の師匠になるという構図がいい。力強い性格の少女が別のパラレルヒーローとして主人公と適度に距離をたもつのもいい*2。他のにぎやかなパラレルヒーローも存在するだけで画面が変化するし、アクションにも多様性が生まれる。
何より、敵組織の内部に複数の動機があって、パラレルヒーローとも違う多様な存在として主人公の視野を広げていくのが良かった*3。異なる世界の出現を求めるほど切実な心情があったり、主人公がヒーローになれなかった場合の未来図を感じさせたり。もちろん罪に応じた罰はくだされるが、良き側面まで否定されることはなく、主人公を一面で救う瞬間があった。


3DCGアニメであるため、スパイダーマンらしいワイヤーアクションの移動で楽しませるだけでなく、世界観の異なるアメコミヒーローが描線や色彩のレベルで変わる。特に、モノクロ世界からやってきて平面的な質感で、風もないのにコートがはためいているノワールが最高。モノローグの吹き出し漫符もアメコミ的で、かつ立体的な空間に浮かびあがるメタなギャグが楽しい。
ただここまで手間をかけるなら、ペニーは3DCGと合成するように手描きアニメで見せるか、日本アニメ風にする経験がある日本のCG会社の協力をあおげば、もっと良かったかもしれない。日本風の少女キャラクターだが、CGモデルに演技をつける関係か、首が太めのモデリングなところで欧米風に感じられた*4
あと、キャリアのある声優が吹替版を担当して、演技に安心感があるだけでなく、その声だけでもさまざまなヒーローを連想させることも楽しかった。

*1:hokke-ookami.hatenablog.com

*2:ただ登場した社会的な位置からして、どの時点でパラレルワールドからわたってきたのかは、うまく理解できなかった。

*3:アカデミー賞長編アニメ部門の常連だったディズニーピクサーが、悪役だけは矮小な倒されるだけの存在になりがちなことは、何度となく難点と思っている。そういう意味でも、この作品がディズニーピクサーを抑えてソニーピクチャーズで初受賞したことは良いことだと思った。

*4:逆にペニーに限らず3DCGなのに動きがなめらかでなく、適度にカクカク動いているところは、日本のアニメを模倣した3DCGらしいと感じられた。