法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』大人をしかる腕章/無人島へ家出

ついに通常放送で前後とも新作。これからアニメ制作者に末端まできちんとした仕事があればいいのだが……


「大人をしかる腕章」は、玄関前を掃除していたのび太が鼻紙を捨てた男に文句をいうと、逆に怒られる。そこでドラえもんは大人をしかって言い聞かす秘密道具を出すが……
たしか2005年以降で初アニメ化。鈴木洋介脚本に鈴木卓夫コンテ。コロナ蔓延がつづくなかの新作で、アニメオリジナル描写のところどころに現代社会らしさが感じられた。
まず、発端のゴミを捨てる大人が、タバコのポイ捨てから鼻をかんだチリ紙を捨てる描写に変更。後期の原作だが初出は1980年で、歩きタバコもポイ捨てもマナー違反だが珍しくはない時代だった。一方でアニメの何度も何度も鼻をかんでは捨てる描写に、新型コロナの蔓延する現在を思わずにいられない。
他にしかられる大人として、駐輪禁止の道端に自転車をとめたり、ひとりふたつまでのトイレットペーパーの買い占めが描写されたりする。自転車撤去のきびしさは1980年代から強化されているだろうし、トイレットペーパー大量購入はそのまま現代社会の一風景だ*1
のび太は原作でただしかるだけだが、今回のアニメ化ではそれっぽい理屈を口にする。妥当とはいいがたいが否定しきれないラインで、のび太の機転を感じさせる。原作を読んだ時は気づかなかったが、権力勾配にあらがう秘密道具の意義も感じられる。
そして暴走するジャイアンは子供なのでしかって止めることができなくなり、先にしかった剛田母や神成さんや先生もジャイアンを止めてくれなくなるのだが……のび太は腕章をつけたまま大人たちに助けをもとめているので、以前にしかったことはリセットされるのではないだろうか。しかるのではなく助けをもとめているから秘密道具の機能が発揮されない、といった理屈がつけられなくもないが……ここはジャイアンが腕章をうばったり引き裂く描写を足してほしかったと思う。


無人島へ家出」は、こっそり夜に帰ってきて両親にしかられたのび太が家出する。繁華街で補導されかけ、飛んで逃げながら眠ってしまうと、無人島にたどりつく……
2008年に中編アニメ化*2した初期短編のリメイク。内海照子脚本、氏家友和コンテに、篠塚滉平が二度目の作画監督。島の山頂で周囲をみわたす広々としたレイアウトが印象的。
全体としては原作に忠実な映像化だが、微妙なアレンジもいくつかある。原作では雨が降った時に傘をさすが、その傘が晴れでも内側から雨を降らすという秘密道具で、あわてて井戸用に掘った穴へ逃げこむ描写につながる。その傘が結果的に水を確保する助けになる順序だ。一方、今回のアニメでは井戸をほった描写が先にあることを重視し、まず雨がふって飲み水に喜び、何気なく傘を開いて水の確保に喜ぶ……という順序。原作らしい不幸と幸福が循環する構成の妙は欠けるが、なるほど登場人物の心情としてはこちらが自然かもしれない。
また、原作では木の実と水の確保まででサバイバル描写を終えるが、今回のアニメでは手品の銃をヤシの実に穴をあける鈍器としても応用。のび太が待ちつづける横では、時間をあらわすよう石をつみあげ*3、片隅に焚火と魚を映す。よりサバイバルらしいディテールが増していた。今回は放送枠の半分の慣例的なアニメ化のためこれ以上のディテール増はなかったが、いずれ学習用ロボットにサバイバル知識を学ぶ描写を足したアニメ化もされるかもしれない。

*1:www.nhk.or.jp

*2:hokke-ookami.hatenablog.com

*3:さらに十年間の時間経過で、自室で目をさまして一安心する夢を追加。