法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世にも奇妙な物語 '20夏の特別編』

恒例のオムニバスドラマ。いつもは5話くらいだが今回は4話だけで、番組最後に秋の特別編の次回予告も。
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予告映像がつかわれるくらい次回の撮影が進んでいることにも驚いたが、そもそも来期放映を予告する前例が記憶にない。


「しみ」は、両親が知人の葬儀に出かけて、ひとり個人クリーニング店で留守番していた女性に、黒ずくめの奇妙な客がおとずれる……
特に現代的な怪談として斬新でもないし、恐怖演出もオーソドックスで怖くはないが、クリーニング店という舞台設定にビジュアルの目新しさがあった。
残念ながら主演の広瀬アリスのいちいち息をのむ演技はわざとらしく、子供時代の子役の演技に負けているとすら思ったが、これは監督の演出方針のせいでもあるだろうし目はつぶれる。
クリーニング店とむすびつきが強い冠婚葬祭の日常風景が本筋にかかわってくる構成もきちんとしている。かつて血痕を消して隠した因縁がシミとなって襲いかかる構図もわかりやすい。
ただいかんせん、主人公が呪いの実行犯と対決してから、急転直下でジャンルが変わったことが残念だった。夢オチと大差ないし、このシリーズでは以前に何度もつかわれている*1。以前の似たエピソードは多少は伏線が入っていたが、今回はそれすらない。
呪い殺された主人公が塀のシミになって、日常の風景にまぎれこむ……みたいな珍しくないオチで良かったのでは。


「3つの願い」は美しい妻が誘拐されたという投資家が、怪しげな来歴を警察に問いつめられ、秘密にしていた過去を話す……
願いを超常的にかなえてもらって、思わぬしっぺ返しをくらう『猿の手』パターンの物語。すでに定着したジャンルと理解して見ていたし、そもそも主人公がしっぺ返しを受けている局面から回想がはじまるので、前話と違って納得感が高い。
主人公の話が事実なのか疑いつつ、謎めいた主人公の状況を解明する糸口になると考え、事実でなくても動機になりうると判断して捜査をつづける警察にも納得感があった。少ない登場人物で次々に新たな容疑をそれなりの説得力でかけていくので、サスペンスらしい牽引力もある。
ストーリーテラータモリが特別編全体の冒頭で「親殺しのパラドックス」を前振りしていたので、主人公のかなえた願いが「未来の自分の持ち物」という「ループ型タイムパラドックス」な真相は予想できたが、こういうファンタジー系ではあまり見ないので楽しかった。どのように何を「等価交換」したかを示し、そのまま終わったことも蛇足感がなくていい。
ただ、魔人が無から有を生みだせないと説明するため「等価交換」という言葉をつかった当初は首をかしげた。『鋼の錬金術師』で広まった用法に近いが、そもそも主人公は何もさしだしていない。最終的に主人公はさしださなければならなかったと理解はできたが、伏線というには引っかかりが中途半端に強すぎた。


「燃えない親父」は、火葬場で長女と長男がいさかいをおこしつつ、父をおくりだしていた。しかし棺や衣服や遺品は燃えつきたのに、父の死体だけまったく燃えない……
心残りの物と考えて次々に遺品を燃やしては失敗していく天丼ギャグかと思ったら、費用の負担が気にかかるのは棺だけ。もうちょっとシリアスに、何が父の心残りかをさぐって老人の裏の顔を知っていく物語だった。
フィリピンパブのキャストっぽい三人のジャスミンは完全に無関係なギャグだったが、ゲイっぽい男性のジャスミンが親身な知人として登場したのを嫌悪しないことは良かった。むしろ老いらくの恋としてシリアスにとらえようとした遺族に、そういう関係ではないとジャスミンが否定して肩透かしギャグにする。
ありえない設定だが、長女を女医に設定して父が間違いなく死んでいることを確認したり、視聴者が感じる可能性をていねいにつぶしているのも良い。
結婚指輪」を燃やしたかったという真相そのものには驚きがないはずが、あくまで脇役のはずの職員の台詞にさりげない伏線があって、ちゃんと人情劇としての味わいがあった。


「配信者」は、バズをねらおうとTV局内で危ない配信をするADが、謎の人間におそわれる立場になり、意図しないかたちでバズっていく……
いかにもコロナ禍の時代らしく、配信画面を劇中にとりこんだりしている。ひと気のないTV局で最小限の俳優しか出さず、無邪気な観客は文字のコメントだけで表現しているのも、感染症対策のためかもしれない。
内容はフジテレビ系列のゲームバラエティ『run for money 逃走中』に、個人配信やスナッフフィルムの要素を足したといったところか。主人公と追跡者がたがいの配信画面を参照して逃げたり追ったり、コメントで追跡者にアドバイスされたり、限定された状況でも次々に新たな展開をして飽きさせない。
通報したり助けを呼ばない主人公の愚かさも、この物語なら納得できる。冒頭で女子アナの食べ残しをバズ目的で顔出しで口にする考えなしで、かつ後ろ暗い立場なので、ひとり逃げまどう選択も不自然ではないのだ。
オチは特に良くもないが、ひどすぎるわけでもないので許せた。こういうジャンルは追いかけっこする場面だけ楽しければそれでいい。

*1:前回も1エピソードがそうだったが、あらためて調べると同じ諸橋隼人脚本。同じオチで劣化しているのはいただけない。 hokke-ookami.hatenablog.com