法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』変身レプリンター/ツバメののび太

アニメオリジナルの前半と、原作のある後半と。


「変身レプリンター」は、先生の家庭訪問を阻止するため、遺伝子をとりこんだ相手に変身できる秘密道具を使う。それで母に変身してやりすごしたのび太は、宿題をするため出木杉に変身するが……
伊藤公志脚本、木野雄コンテのアニメオリジナルストーリー。変身できるのは毛髪までで、服装は変えられないし、逆に頭脳などの能力は獲得できるのが他の変身系との違い。ヘソ出しショートパンツ姿になった野比母のエロティックさは他にない。この設定のおかげで誰に変身しても区別がつけやすい良さもある。
物語については、のび太が急いで宿題を始めた謎に始まり、はちあわせした本物の野比母が自分の疲れと思いこんで引っこんだりと、微妙に原作のパターンを外して進行しながら、あまり違和感がない。少し選択肢や出会いの順番を変えれば、同じキャラクターでもこういう行動をとると納得できる。
のび太が変身した偽者と自分自身の境界線がわからないジャイアンも、直前でスネ夫の演技に失敗したのび太とパターンをずらしていて、作者が混乱しているのではなく登場人物が混乱しているのだと理解できる。
変身を維持しつづけるには精神力が必要で、いろいろな遺伝子をとりこみすぎて顔面がメタモルフォーゼするオチも怖くていい。道具をとれば解除できると説明されているので安心感もある。


「ツバメののび太」は、のび太スネ夫に対抗してクジラを飼っていると口走ったため、ドラえもんは遠くの動物を空間ごとケース内にもってくる道具を出す。そして渡りが遅れたツバメを観察することになるが……
おそらく2005年リニューアル以来の初アニメ化。原作初出の1981年では、渡りの遅れがそのままのび太のようにノロマという話になったが、地球温暖化がつづく現在では別の文脈が生まれている。
シリーズディレクターとして善聡一郎が早くも二度目のコンテを担当。ジャングルの動物は止め絵で植物などを描きこみ、空中のツバメは挙動をていねいに作画。電柱にぶつかったツバメが回復して飛びたった時、また電柱にぶつかりかけるようなアニメオリジナル描写で、遠く離れた場所をきりとっているという実感が生まれる。
押入れを叩いてドラえもんを起こそうとしたら、襖が開いてドラえもんの鼻を叩いてしまう描写など、生活描写も細かくていい。最初から最後まで基本的に原作通りだからこそ、それが現実に存在したらどのように動作するのかを重視するだけで、アニメとして充分に見どころがあった。