法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』後編

脚本家の野木亜紀子による完全オリジナルストーリー。女性記者の職場に取材対象者があらわれ、自身のツイートは真実だとうったえる。そこで女性記者は状況証拠をかためて因縁の知事候補者へ突撃するが……



50分枠の前後編で放映されたNHK土曜ドラマ。木曜早朝の再放送で視聴した。
フェイクニュース | NHK 土曜ドラマ
前回の結末は、監修予定だったid:hagex*1が刺殺された事件を連想させた。もちろんドラマでは心情をぶつけあうことで情報が共有され、真実に近づくことになる。
今回は、さまざまな動機でさまざまな人間がフェイクニュースを広めていることが描かれる。印象的だったのは小遣い稼ぎのため複数ブログを運営する主婦で、手間をかけて異物混入を偽装しながら、最高額に達したというアフィリエイトが5000円以下。偽りを売っても、私の平凡な感想ブログの最高収入より低い設定でしかない貧しさ。


しかし物語が進むと、前回ではミスディレクションに騙されなかった主人公が*2、ずっとひとつの嘘に騙されていたことが明らかになる。嘘の舞台はインターネットばかりではないし、嘘をつくのは匿名の悪人ばかりではない。
ここで主人公を騙す動機そのものが目新しくてミステリとして面白いし*3、そうして騙したことに何の意味もなくなる展開も皮肉でいい。
主人公以外でも、劇中の平凡な一般人がナチュラルに外国人への蔑視を語ったり、過去の野放図を反省した人物が一転してブロッキングを推進したりと、いくつもの人間の多面性を描いていく。
最終的に主人公たちがつかんで公開した事実が「フェイクニュース」あつかいされる描写も気がきいている。「フェイクニュース」が流される問題だけでなく、「フェイクニュース」という評価が間違っている問題もとりこんで、ドラマはわだかまりを残して終わる。


実のところ、さまざまな論点がつぎつぎに登場しすぎて、終盤がとっちらかった印象はある。最終回でのさまざまな人物の顛末も、やや極端すぎないかと感じた。
とはいえ、一種の謎解きミステリとして一本の筋がとおっていて、娯楽としての落としどころまで示されたので、視聴後の満足感はある。続編は難しいだろうが、女性記者の出向しているWEBメディアを舞台とした連続ドラマを見たいと思うほどだった。
デモ隊の大規模な衝突や、さまざまなフェイクニュースの舞台など、あくまでTVドラマの撮りかたではあるが、映像に力を入れているのもいい。北川景子がセーラーマーズを演じていたことを思い出させる女性記者のアクションなども楽しかった。

*1:Hagex-day.infoを読んでくださっている皆様へ - Hagex-day info

*2:『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』前編 - 法華狼の日記

*3:厳密には主人公が脇役であれば、けっこうありふれた騙しではある。名探偵役なはずの主人公が別の名探偵にとっては脇役だ、という視点の転換によって目新しさが生まれている。