法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HUGっと!プリキュア』第35話 命の輝き!さあやはお医者さん?

次のドラマで医師を演じる参考に、薬師寺さあやは病院での研修を受けさせてもらう。以前に知りあった産婦人科医から、いくつもの大切なことを薬師寺は教えてもらう……


第27話でも描かれた出産を、共通する登場人物と舞台で早くも語りなおす。脚本も同じ広田光毅だが、絵の良さに助けられたこともあり*1、今回は納得できる内容だった。
キャラクターの顔を隠すことを避けがちなアニメにおいて、小児科で描かれるキャラクターが主人公をふくめてしっかりマスクをしているあたり、たぶん取材をていねいにしているのだろうし、それをフィクションだからと甘えず作品に反映させようとしているのだろう。


まず今回の出産が帝王切開なことについて、薬師寺はインターネットで調べて、何の問題もないことを母親に伝えてフォローしようとする。自然分娩が賞揚されがちな社会通念を前提として、それへの反論が結論ではなく導入にすぎないという構成に驚かされた。
対する産婦人科医は、インターネットの意義を認めるし、薬師寺の意見も否定はしないが、その上で出産における悩みは個々人のものだと指摘する。インターネット検索を駆使するという薬師寺の設定については、いつかはインターネットに誤情報が流れている問題も描いてほしいと思っていた。
『HUGっと!プリキュア』第2話 みんなの天使!フレフレ!キュアアンジュ! - 法華狼の日記

図書室にいながらインターネット検索にたよる薬師寺は、検索結果が汚染されている現状を思うと危ういところがある。

いずれインターネットの信頼性や危険性に注意するエピソードが描かれることを期待したい。

残念ながら、たとえばインターネットで敵が流した誤情報にプリキュアがまどわされるような展開はなかった。しかしそうした問題よりも深く、情報そのものが正確なだけでは不充分という問題意識を描くことは予想していなかったし、期待もしていなかった。単純にインターネットへ距離をとらせるのとも違う、これはこれで悪くない教えだと思う。
胎児に対する愛情も母性神話にならなさそうな説明がされているし*2、完璧を目指しながら達成できない母のありようも肯定していく。
どちらかといえば子といっしょに視聴している親へ向けた内容だが、祝福の関係性の輪から外れた姉の視点で描くことで、幼い視聴者向けの番組としても成立している。
ちゃんと現代の視聴者に向けてアップデートしようとするスタッフの意識がつたわってくる内容だった。

「それはそれとして、アンドロイドのルールーが妊婦体験をする描写はどうなの……」
「胎児の重さを体験しているハリーにいたっては男だし、その正体はネズミじゃん」
「ハムスターでしょ」
「そんな細かいところはどうでもいいだろ。妊婦の苦労を体感するための体験なんだからさ」
「苦労の体験なら、呼吸法をする必要はないんじゃないですかね?」
「それはあれだろ、アンドロイドだから妊娠しないとは限らないってことだ」
「……妊娠? 何のため?」
「うむ、一例として、百合妊娠というジャンルがあってだな」
「……? 何それ?」
「たとえば男が滅びた未来世界で、人間とアンドロイドのあいだに子供が産まれたりするような物語さ」

イヴとイヴ (百合姫コミックス)

イヴとイヴ (百合姫コミックス)

「知らなかったそんなの……」

*1:演出は畑野森生で、作画監督は美馬健二と、この枠のスタッフではエース級。コミカルなアクションが楽しい。

*2:ただ、私がくわしくないだけで、劇中の理屈がそうした神話に援用されている可能性はある。このあたりは要検証だろう。