法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『劇場版 HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』

盗賊集団の幻影旅団は、かつて少数民族クルタ族を襲撃し、その肉体から「緋の眼」を抜き取った。その生き残りの復讐者クラピカもまた、謎の敵に「緋の眼」を奪われるが……


人気漫画『HUNTER×HUNTER』を原作とする映画の第1弾で、「緋色の幻影」は「ファントム・ルージュ」と読む。アニメオリジナルストーリーで2013年1月に公開された。

制作会社は2度目のTVアニメ化をおこなったマッドハウス佐藤雄三が監督をつとめ、兼森義則や田中洋之がコンテに入り、田崎聡総作画監督。スタジオライブ関係者が中核をしめたTV版よりもマッドハウスらしさがある。
序盤のかなり陽性な雰囲気を強調したTV版に比べて、陰鬱さを増した映画版は好みのはずなのだが……残念ながら宣伝で期待した内容とストーリーの主軸がまったく違っていて、最後まで違和感がつきまとった。


まず、本編でクラピカは眼を奪われたので、まともに物語に参加できる状態ではなく、基本的に主人公ゴンと親友キルアのコンビで難題に立ちむかうこととなる。
それゆえ、物語の印象は状況に比して陰鬱ではないし、それ以上にキルアのゴンへの執着という復讐どころか危機とも直接の関係がない心情がドラマの中心になってしまっている。


しかも、敵となる幻影旅団の元メンバーにしても、「緋の眼」はアイテムとして欲しているだけで、行動動機はまったく異なる個人的なところにあり、ゴンとキルアのドラマとも独立している。強そうな設定は語られるが、半端に善良な側面を描こうとして悪役として凡庸な印象しか残らない。
オリジナルストーリーで幻影旅団を活躍させつつ、原作ストーリーに影響を与えないよう人形で現身を作る敵の能力はアイデアだが、性格は死ぬのでドラマは作れないし、頭脳戦も展開できない。実のところ原作からして幻影旅団のデザインや能力そのものは突出した魅力があるわけでもないので、かたちだけ真似ても面白味はない。
人形は最後に本物の幻影旅団が倒すかたちで処理されるが、あまりに簡単すぎて本物の強さを印象づける踏み台にもならない。幻影旅団自体、映画のメインストーリーとからまないのでカメオ出演くらいの印象でしかない。


結局のところ、まったく重みの異なるドラマが分裂したまま進行するだけで、ひとつの物語としてまとまっていない。
タイトルや宣伝に使われた要素がアイテムでしかないことや、敵のドラマが個人で完結しているところも、分裂した印象を強める。
せめてもっと作画の見どころがあれば良かったのだが、この映画が公開されて以降はTV版で作画に力が入り*1、物語も原作の陰鬱さを再現できるようになったので、相対的に評価が落ちてしまった。

*1:中澤一登が参加した第82話くらいから向上していく。『HUNTER×HUNTER』第82話 カイト×ノ×スロット - 法華狼の日記