法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『エリート・スクワッド 〜ブラジル特殊部隊BOPE〜』

ブラジルで軍警部隊BOPEをひきいていたナシメント大佐は、刑務所の暴動鎮圧で死者を出し、現場で折衝していた人権活動家フラガに批判される。
人気の高さゆえに左遷こそされなかったものの公安部へ配置換えとなったナシメントは、州議員となったフラガと公私にわたって対立することに……


ジョゼ・パジーリャ監督による、2010年のブラジル映画。ギャングからスラムの支配権を奪った公権力が、腐敗したシステムを確立するまでを描きだす。

画面に映る原題に「2」と表示されているように、ベルリン金熊賞を受けた2007年の『エリート・スクワッド』の続編。前作の高評価を受けてブラジルで大ヒットし、アカデミー外国語映画賞にノミネートされたという。
構成がしっかりしており、物語を追うための情報も充分に提示されており、単独でも問題なく楽しめる。しかし、いくつかの登場人物は、前作を見てこそ顛末に意外性を感じられるようだ。Amazonプライムビデオで前作が配信されていないのが残念。


ブラジルの犯罪と警察腐敗をあつかったドキュメンタリー映画バス174』でデビューしたように、監督はノンフィクション性にこだわり、多くの描写にモデルがあるという。
しかしまずは、腐敗した社会にもぐりこんでいく娯楽活劇として、素直によくできている。ナシメント人気を背景として増強されたBOPEは、獲得したヘリコプターや特殊車両でギャングを制圧していく。
スラムも議会も実際の場所でロケーション。広大な空間でおこなわれる銃撃戦は迫真的だ。撮影の小道具も質感がしっかりしていて、血糊や爆発にも不足を感じさせない。死ぬ場面は一瞬で終わらせて、悲しみを感じるとしても後で描く。
しばしば現場と上層部の思惑が異なる描写をしながら、物語を無駄に複雑化していないこともいい。社会の腐敗を逆用した作戦はわかりやすく、戦闘場面と政治劇を密接にからませる。


そしてドラマは、武力を基礎として平和を求めたナシメントの、混迷と挫折と葛藤をモノローグにのせて描いていく。
ここで、主人公と対立するフラガの人物像が素晴らしい。武力による解決を批判して、暴動の起きた刑務所に乗りこんで、自ら人質となって武力衝突を止めようとして、それが失敗するとマスメディアの前でナシメントを糾弾する。ナシメントたち公権力側からは「左翼」と嫌悪されるし、そうでなくても娯楽活劇においては蔑視されがちな人物像だ。
しかしフラガは危険を覚悟して人命をできるだけ救おうとしたことも事実。暴動の折衝も成功をつかみかけたところを、ナシメントと現場の行き違いで失敗してしまう。それなりの信念と能力をもった人間として、州議員となっても存在感を発揮していく。
逆にナシメント自身も、フラガの行動を全否定して動くわけではない。かけちがいが最初の衝突を生みながら、政治家となったフラガが事態を把握した早さを、しぶしぶモノローグで認めていく。そして何気なく違法におこなっていた捜査がフラガとむすびつき、ナシメントの決定的な挫折と裏腹の和解にたどりつく。
さすがにナシメントの元妻がフラガと結婚している設定はドラマの都合を感じたが、息子をはさんだ葛藤を深く描いていき、きちんと設定を使いきっているので許せる。


ギャング一掃の成功が、より腐敗したシステムを呼びこんだり。ナシメントの味方に見えた者が、ただ特殊部隊の人気と武力を利用するだけだったり。ナシメントの敵に見えた者が、その信念をもって信頼できる相手となったり……
皮肉に満ちながら娯楽活劇にとどまり、立場を超えて腐敗にあらがうことを正面から謳う。警察力を批判するようでいて強さは賞揚したままの作品は多いが、それよりさらに広い視野を獲得した映画として印象に残った。