法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『王様ランキング』は、キャラクターの印象が好転してもダメなところはダメなままなのがエライと思う

ここ数日で一気に注目をあびたWEB漫画。どこを経由して読みはじめたのか忘れたが、私自身もそんな流れで知り、期待しない状態からひきこまれて、一夜で最新話まで読み通してしまった。
王様ランキング / goriemon - マンガハック | 無料Web漫画が毎日更新
古臭い絵本のような簡素な絵柄だが、コマ割りは読みやすく絵の基礎もしっかりしている*1。アクションの描写が絵としてきちんと表現されている。
極端にデフォルメされたキャラデザインも、群像劇をわかりやすく見せる効果があるし、物語をとおしてどんどん魅力が出てくる。実際に読んでもらうのが早いだろう。
もちろんあらゆる作品と同じく、難点と感じるところはいくつかある。いまのところタイトルの王様ランキングが陰謀劇の背景のひとつでしかなかったり、真意を明らかにしないまま敵も善悪両面を描きすぎて対立構図が弱まったり。魔物関連も描写が多いわりに設定が不明瞭で、きちんとした基盤の上で動いている群像劇に比べて後出し感がある。
しかし現在まででも、60話以上の魅力的な物語を楽しませてもらったことは間違いない。


そんな作品のキャラクターで、おそらく一番人気は義母のヒリングで、師匠のデスパーあたりが二番だろう。
たとえば36話*2で登場した時のデスパーはナルシスト気味で、その能力に不信をいだかざるをえない。指導の対価をしつこく求めて、詐欺師の可能性を感じさせる。
やがて師匠らしい態度をもって主人公を導いていくわけが、ついに成果が出たと思った48話でやはり裏切っていたと読者に感じさせる。その真意を描くエピソードでも守銭奴な性格をわざわざ描写するコマを入れる。
キャラクターを印象づけるため初登場は極端な性格を描いて、やがて信念や長所や善性を見せて読者に好感をもってもらうというテクニックは珍しくない。しかし読者にキャラクターが認知されてからは、登場時の極端な性格はフェードアウトしがち。好感をもたれにくい恐れがあったり、キャラクターの人間味が弱まったりするためだろう。しかしデスパーは登場時の性格も最後まで見せつづけて、一貫した人格を感じさせる。
ヒリングもそうだ。初登場の2話から安易に誰かを「死刑」にしようと口走り、主人公の王位継承権を奪おうとする継母。しかし口走りながらもすぐ後悔して反省して、実際には全力で周囲をいたわる人物とわかってくる。
登場時と以降の落差と、隠れたところで奮闘する王妃というギャップ、さらに主人公にからむ描写量の多さもあってヒリングは爆発的な人気をえているわけだが、当初の性格が消え去ったわけではない。
特にすごいのが51話で、本心では主人公も愛している善良な人物とわかった後でも、感情のほとばしるまま「死刑」を命じてしまう。そしてそれがそのまま実行に移されて、王妃本人はガクゼンとしながら止められない。法律をもちだしていさめていたキャラクターが政治劇の結果で消えたため、王妃の情動を誰もフォローすることができないのだ。当初に描かれた欠点がその時点では問題にいたらず、おぎなう長所を見せきった後に問題発生の伏線として機能する。それは個人の善性だけでは止められない周辺状況の悪化を象徴する描写でもある。
キャラクターの悪しき側面を描いた後に良き側面を描くが、悪しき側面もまたそのキャラクターの一部として忘れない。作品に対して誠実な作者だと思う。

*1:作者サイトの「趣味の落書き」で実力の一端を知ることができる。趣味の落書き – 十日草輔(とおかそうすけ)

*2:権力者の銅像に対するカゲの評価が地味に好ましい。しいたげられた民族の言葉として世界観にそっているし、違和感なく物語になじんでいるからこそ評価の逆転に説得力と意外性がある。