法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ガンファイターのび太

西部劇を楽しむ秘密道具のゲームで世界記録を出したことで、のび太は調子に乗って現実の西部開拓時代で活躍しようとする。
しかし実際の銃撃戦を見て気絶。さらに本物の拳銃の重みや、敵に対する恐怖、責任を負わせようとする住人に傷ついていく……


のび太が特技を現実で発揮する有名エピソードを、2005年のリニューアルからは初映像化*1。早くも信頼できるようになった鈴木洋介が脚本、山口晋がコンテ演出を担当。素晴らしい作画で30分枠いっぱい使ってスペシャル感あるアニメとして完成させた。
まず、銃撃で流血するような描写は可能なかぎり隠して、のび太の銃撃で敵が直接的に傷つく描写も改変。しかし同時に重みを感じながら拳銃をもち、敵の武器だけを狙い撃ったり、建物を崩すかたちで攻撃したりして、制限をかわしつつ本当の銃撃戦を展開してみせた。ちゃんと狙撃と弾込めで役割分担したり、馬を驚かせて間接的に攻撃したりと、知恵をめぐらした戦闘らしさもある。敵首領を決闘で倒すアレンジも、クライマックスを効果的にもりあげた。
2005年以前にも1987年にアニメ化されたが、そこで敵を倒せたのは、玩具の弾が相手の鼻の穴に入ったためだった。比べて今回は、ずっとバイオレンス感を残している。もっとも、実際の拳銃は重すぎて撃てないと最後まで一貫したアニメオリジナル描写は、1987年版の良さでもあるのだが。


また、住人が戦わないことを原作では批判しなかったことに対して、この2018年版では救世主を都合よく利用しようとする問題として描いたことも興味深かった。
個人が戦うことは義務ではないという思想の原作は好ましいが、のび太が去った後も街を守りつづけるために住民ひとりひとりの意識が大切だという今回のアニメも悪くない*2。その関連で、町長の娘がのび太の介抱をする描写を足したり、銃撃戦でも危機を救ったり*3、原作より物語にからんで活躍したことも良かった。
ただひとつ、当時の開拓者の台詞として自然とはいえ、何もないところから街をつくったと語るオリジナル描写は危なっかしい。街を守りたいという動機の強調という意図はもちろんわかる。その上で、先住民と争わないため荒野に住むことにしたとか、そういう配慮ある描写もつけてほしかったかな。

*1:ただし、2008年に西部劇風な宇宙に舞台をおきかえた「宇宙ガンファイターのび太」が2週にわたって前後編で放映されたことはある。映画『のび太と緑の巨人伝』の宣伝的な側面が強く、あまり良い記憶はないのだが。

*2:全米ライフル協会に見せたら推薦してもらえそう……というのは誉め言葉にはならないか。しかし実際に見せて感想を聞いてみたいところではある。

*3:敵の台詞がそのまま返ってくるところが細かい。