法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『NHKスペシャル』戦後ゼロ年 東京ブラックホール1945−1946

闇市がたちならび進駐軍がはばをきかせる混沌とした東京。記録映像と再現映像を組みあわせて、欲望を飲みこむブラックホールとして描きだす。
戦後ゼロ年 東京ブラックホール|NHKスペシャル

俳優・山田孝之が最新のデジタル技術で、戦後ゼロ年の東京にタイムスリップ!
絶望と野望がせめぎ合うルールなき世界で彼は何を見たのか?

タイムスリップした青年を歴史的な映像に合成する、まるで映画『フォレスト・ガンプ』のような趣向をつなぎにして、いくつもの戦後の「闇」を映し出していく。
NHKの合成技術に映像表現として期待しつつ、情報番組としては闇市の風景が流れるくらいかと思いきや、戦後日本の基盤にある問題を正面から描いていた。
たしかに廃墟の美術セットや自然な合成技術も素晴らしかったが、そこは視聴者の興味を引くためだけの位置づけで、はっきりした主張はない。あくまで主役は当時の映像である。
そうして終戦記念日前後ならではの情報を、あくまで参考になるだけの過去ではなく、現在につながっていることとして示していく。


まず、日本政府が進駐軍へ女性をあてがったRAAを現在のNHKが出してくるとは思わなかったし、闇市出身のフィクサーが政界や経済界に現在まで影響をおよぼしていることを写真や実名で示すことも予想しなかった。
米国が軍人や政治家をスパイとして利用したことも言及。そのために自由を与えてもらった戦犯容疑者の祝杯で、その人脈が現代へつづくことを示唆する。
敗戦直後から日本軍や省庁が大量の物資を隠匿した資料。それが多くの人々を飢餓で苦しませ、隠匿物資の横長しで一部の人間が豊かになったこと。これも軍隊と国民の本音の関係を教えてくれる。


そうした事実のひとつとして、当時の資料を引用するかたちとはいえ、昭和天皇の問題に切りこんだことも予想外だった。「ヒロヒト君を解剖する」なる強烈な見出しの表紙が、堂々と提示される*1
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/e220524431

番組が見せていくのは、飢餓に苦しむ民衆が皇居に押しかけ、食堂の裕福な献立があばかれた新聞記事*2。ひとりの人間になったと称する天皇が、焼け出された子供へ笑顔で無責任に会話する姿。国難へ家族として団結するよう語った第二の玉音放送に対して、言葉だけで実行がないと若者が批判する当時のニュース。
八紘一宇という言葉に代表されるような、天皇を中心とした家族という世界観。それはしょせん一家を破産させた家長が隠居するだけで責任から逃げられて、なおかつ自分だけはタラフク食べて飢えを満たせるという、身勝手な代物でしかなかったわけだ。

*1:しかしインターネットを検索して、少し前に送料別で500円で落札されているとは思わなかった。内容も興味深いが、意外と多く出回っている雑誌なのだろうか。

*2:id:Vergil2010氏のエントリがくわしい。朕はたらふく食っていた ― 食糧メーデー当時の宮中の献立 - 読む・考える・書く