法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

そもそも民進党の大西健介氏は、高須クリニックが悪徳クリニックだという主張はしていない

高須クリニック高須克弥氏による大西氏への名誉棄損裁判がはじまっている。
しかしインターネットを見ていると、どのような文脈で大西氏が高須クリニックを暗に示したのか、あまり知られていないように感じる。
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すでにid:sirduke氏のエントリで指摘されていることだが*1、まず「悪徳」について国会議事録から該当する記述を引用する。
衆議院会議録情報 第193回国会 厚生労働委員会 第20号

 テレビで盛んにCMをしている超有名な美容クリニックの医師のブログの中に次のような記述がありました。
 最近は、美容クラークと呼ばれる専門のカウンセラーを雇っているクリニックも多く、美容クラークは個室で患者様と二人きりになって時間をかけて話し、括弧、これを専門用語でクロージングといいます、料金や効果の高い治療を受けるように説得し、場合によっては医療ローンを組ませるように促します。美容クラークさんは、生命保険の勧誘、セールスレディー出身の人が多く、人心掌握術にたけ、言葉巧みに勧めてきます。生命保険の勧誘と同じで、成約させた治療代金の何%かがインセンティブとして歩合給になるので、患者様の幸せよりも自分の利益を優先し、必死に勧めてきます。
 これは実際にブログに書いてあるんです。有名な、テレビにも出ている美容クリニックの医師の先生が書いているブログです。その人は、うちはそういうことはやっていませんよということを書いているんですけれども。

読んでのとおり、大西氏は「超有名な美容クリニック」が悪徳だと主張しているのではない。
「超有名な美容クリニック」による業界批判を紹介しつつ、「超有名な美容クリニック」自身はそうではないという弁明もつけくわえている。むしろ「超有名な美容クリニック」をある程度まで信頼しているからこそ、自説の裏づけとして提示したかたちだ。
大西氏は直接的に名指しはしていないが、まったく同じ記述が高須クリニック公式サイトで確認できる*2。カウンセラー悪用問題として大西氏が批判した対象が高須クリニックでないことは明らかだ。
高須クリニックの料金は高い?安い? : 美容整形の高須クリニック

美容クラークと呼ばれる専門のカウンセラーを雇っているクリニックも多く、美容クラークは個室で患者様と2人きりになって時間をかけて話し(これを専門用語でクロージングといいます)、料金や効果の高い治療を受けるように説得し、場合によっては医療ローンを組ませるように促します。美容クラークさんは、生命保険の勧誘、セールスレディ出身の人が多く、人心掌握術に長け、言葉巧みにすすめてきます

ちなみに、議事録によれば大西氏は「悪徳」という表現をつかっていないが、公式サイトの業界批判では「悪徳商法じみた」という表現がつかわれている。

必要のない手術をしたり、必要のない手術をしてお金を儲けるのはあり得ないことだし、安い料金の広告で引き寄せて、実際には高い料金に吊り上げる行為は、患者様を騙しているのと同じです。そもそも、手術の上手いベテランの医者を雇い、無理に利益を出そうとせず、健全な経営をしていれば、こんな悪徳商法じみたことをしたり、無料クーポンをばら蒔いて集客したりしなくても、患者様はクリニックに通ってくださるはずです。


もうひとつ、大西氏がTVCMを「陳腐」と表現したことも、高須クリニックを名指しで批判するかたちではない。やはり議事録から引用しよう。

 一方で、医療分野においては、先ほど言ったように、原則広告が禁止になっていて、非常に限定的な事項しか広告することが認められていない、医療機関名であったり、連絡先であったりということでありますので。だから、非常にCMも陳腐なものが多いんですね。
 皆さんよく御存じのように、例えば、イエス○○とクリニック名を連呼するだけのCMとか、若い女性が、〇一二〇で始まる電話番号とクリニックの名前を言いながらごろごろごろごろ転がっているCMというのを皆さん見たことがあるというふうに思います。あるいは、テレビでおなじみのニューハーフタレントが音楽に合わせて踊りながら○○美容外科というのをずっと言い続ける、こういうCMがよく見られるんですね。
 選挙でも、我々、名前の連呼というのをやります、名前の連呼というのを。確かに、知らない人の名前は書けませんから名前連呼するわけですけれども、ただ、名前連呼だけだったら、その候補者が何を考えているのかもわからない、誰に投票していいのかわからないということがあります。

あくまで表現が制限されて具体的な情報を出せないことを「陳腐」と表現して、それをしいられているクリニックの味方のようにふるまっている。
念のため、表現規制批判においても規制下の表現をおとしめる必要はないと表現者側が思うことはあるだろう。「陳腐」とは異なる表現を使うべきだったという批判もわかる。しかし陳腐と呼んだ根拠と文脈は明らかで、たとえ国会の場でなくても、名誉棄損にあたるほどの表現とまでは思えない。
ここで公式サイトを見ると、さすがに自他のTVCMを「陳腐」とまでは評していないが、情報量が薄い問題は率直に語っている。

ブログ記事を書いたり、症例写真をアップしたり、YouTubeに手術動画をアップしたり、ホームページのコンテンツを充実させるといった、全くお金がかからないことに力を入れているので、広告宣伝費の割合は年々下がっています。
患者様にとっても、実際の美容整形の内容、情報をほとんど得ることができないテレビCMや雑誌広告よりも、たくさんの情報を得ることができるブログ記事や症例写真、YouTube動画を観ることのほうがはるかに有益だし、喜んでいただけると思います。

具体的な情報を発信する広告へきりかえていこうという問題意識は、大西氏の問題意識とまったく同じだ。


TVCMを例示されたクリニックが、前後で大西氏が批判した悪徳クリニックにカテゴライズされているため、それが名誉棄損という主張もあるらしい。
高須克弥院長、イエス高須クリニックの「キャッチコピーは亡き妻が遺した宝」 法廷で涙の訴え | ハフポスト

訴状などによると、大西議員は5月の衆院厚生労働委員会で、悪徳な美容外科の広告や勧誘の問題を追及。質問の中で、固有名詞と連絡先だけを連呼する業者のCMを陳腐だとし、例として「イエス!まるまるクリニック」と発言した。

民進党側は請求棄却を求め、高須氏は「法令を守らず詐欺まがいのビジネスをしている印象を与えており、許せない」と訴えた

しかしこれも議事録を読めば、高須氏は誤認しているとしか思えない。
大西氏は高須クリニックに対して法令違反を主張しているのではなく、現状の法令にしたがって広告の情報量が薄くなり、それにより派手な広告と強引な勧誘で集客される現状を憂いている。
つづいてフリーペーパーの広告は野放し状態という批判も展開しているが、そこで大西氏が例示しているのは、明らかに高須クリニックではない。

これは私の地元のグルメ情報とかが書いてある普通のフリーペーパーです。これに入っていた広告ですけれども、これは先ほどの、女性がぐるぐる床を転がる派手なCMをしている、全国に二十七院を展開している大手の美容医院の広告ですけれども、これは、違反表示のオンパレードですよ。丸をつけたところを見てください。

 これは、本当に、最大手でテレビでばんばんCMを打っているところですよ。だから、さっきも言ったように、テレビCMは名前と電話番号しか言わないけれども、このフリーペーパーに載っている広告は違反表示のオンパレードなんですよ。ですから、これが私はおかしいんじゃないかと。

ここで例示された別のクリニックが大西氏を訴えたなら、まだしも理解できる。高須氏がなぜ自分を批判されたかのように受けとったのか理解しがたい。
ちなみに高須クリニック公式サイトでも、法令違反とまでは主張してないが、他社のフリーペーパーを批判的に記述している部分がある。

高須クリニックの手術料金は、他院に比べると高くないですか?」と言う人のほとんどは、色々な美容クリニックの雑誌広告、フリーペーパー、チラシ、ホームページのトップ画面などで見比べていると思います。

その恐ろしく安い料金を広告でアピールしている美容クリニックも、「二重まぶた埋没法9000円!」で患者様を来院させ、来院したら、医者やカウンセラーが必死にもっと高い治療をすすめたり、他の治療もトッピングしてすすめてきます。

この文章こそ、先に引用した「悪徳商法じみた」クリニックへの批判の根拠である。


議事録と公式サイトを読みあわせると、むしろ大西氏と高須クリニックの問題意識はかなり重なっている。国会で引用した部分だけでなく、主張の多くを高須クリニックに依拠しているとしか思えないほどだ。
一例として、広告宣伝費が重視されるという美容クリニック業界の不健全な状況を大西氏は批判している。

美容クリニックでは売上高に対する宣伝広告費が三〇%から多いところでは五〇%に達する、こういうふうな指摘があります。

もとづいている資料が同じためかもしれないが、大西氏の数字は公式サイトに書かれた数字と一致している。

私が院長をしている高須クリニック名古屋院をみてみると、現在、売上高に対する広告宣伝費は10%程度であり、他院は20〜30%くらいのところが多く、クリニックによっては50%くらい占めるところもあり、この数字は美容整形クリニックの中では低く、優秀なほうです。

もっとも、公式サイトに書かれた問題意識と、高須克弥氏の問題意識が同じとは限らない。引用してきた公式サイトコラムは、息子の高須幹弥氏が担当しているからだ。
名誉棄損裁判の行方によっては、高須幹弥氏が父親と対立する光景が見られるかもしれない。それ以前の問題として裁判が終わる可能性が高いとは思うが。