法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『蝿の王』

飛行機の墜落事故により、無人島に流れついた陸軍幼年学校の少年たち24人。機長は重傷で意識ももうろうとしていて、子供だけで力をあわせて生活する必要にせまられる。
幸いにも水がすぐ確保できて、遠視用メガネで簡単に火を起こせて、とりあえず生きのびることはできたが、豚狩りを優先するグループの動きから破綻していく……


ウィリアム・ゴールディングの同名小説を原作とする、1990年に公開されたカラー版。約90分と短く、VFXも少なくてTVムービーくらいの作品規模。

KINENOTE等の情報を見ると、未見の1963年のモノクロ版に原作再現では劣っているようだが、少年たちのサバイバルが破滅に向かうコンセプトを抽出した映画としては悪くない。
蝿の王」との対話などもなく、精神にわけいるような描写は全体として弱いが、かわりに少年たちを心理的に追いつめる「化け物」を合理的な伏線で登場させ、壊れていく少年たちを客観的に映していく作品としては完成していた。


まず、原作や1963年版は核戦争時代を舞台としており、無人島についた序盤はむしろ楽園的な雰囲気があり、サバイバルの破綻から脱出しても救われないことが暗示されているようだが、その要素は1990年版にはない。軍人になる訓練を受け*1、服装も軍服で統一していた少年たちが、少しずつ倫理と秩序を失っていくシンプルな物語になっている。
映画の中心となるのは、体力的に劣った少年の支えとなり、文明を象徴して、炎を生みだす重要な道具でもあるメガネの争奪戦。そして生活に必要だが制御が難しく、対立するグループの禍根となり武器ともなる炎というモチーフ。さらに少年たちの内面を象徴するように島を襲っては木々をなぎたおす嵐*2。24人もいる少年で見わけがつくのは重要な数人だけだが、それも烏合の衆ぶりを印象づける。
バストアップが多くて画面がせまくるしかったり、ナイトシーンが明るすぎたり、先述のようにTVムービーくらいの映像だが、汚れていく少年たちと緑豊かな風景のコントラストや、激しい炎でおおわれる森など、ポイントとなる情景には力を入れていて、期待しすぎなければ悪くない。

*1:存在しない敵を恐れるという描写として、冷戦で対立していたソ連に見つかることを恐れる場面はある。

*2:狩りグループが既存グループを襲撃する時も、嵐のように住居を押し倒す。