法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』

ゴジラの東京襲撃により、首都が大阪に移転したパラレルワールドの日本。
原子力政策も新エネルギー開発もゴジラにはばまれ、人類は人工ブラックホールを用いた兵器を開発する。
しかし人工ブラックホール兵器の試射で時空がゆがみ、太古の世界から巨大昆虫メガニューラが現れた……



ゴジラ監督になることを夢見て助監督をつづけていた手塚昌明監督の、初監督にして悲願をかなえたゴジラ作品。2000年に公開。

脚本や特撮スタッフは前作『ゴジラ2000 ミレニアム』*1から続投しており、かなり予算が抑えられていることも画面から感じられるが、ぐっと娯楽作品としての完成度は増している。


物語に目新しさはないが、細かな伏線がきちんと回収されていくていねいさは好感が持てたし、ドラマにおける関係性のバランスもいい。
まず最初に首都移転設定を見せてリアリティのハードルを下げて、さくさくテンポ良く物語を展開していくおかげで、ツッコミどころが気にならない。ウルトラシリーズのごとき空想的なメカデザインも*2、作品全体に一貫性があるので、最初に許すことができれば後は問題を感じさせない。
メガヌロンの卵が孵化した責任も、試射場から卵をもちだして捨てた少年ひとりに負わせず、人工ブラックホール兵器を使った防衛隊側に認めさせることで、嫌悪感がひとりに集中することがないし、物語が停滞することもない。
ガメラ2レギオン襲来』を連想させる昆虫怪獣の設定も、あまりSF的に細かく考証されているわけではないが*3、太古の生物という設定を活用して、あらかじめ化石などから考察が進んでいるという力技で、さくさく古生物学者が説明していく。謎解きの楽しみはないが、怪獣プロレスを自然にスピーディーに展開するうまさがある。
対するゴジラもくりかえし上陸してきたという設定から、エネルギーをねらうという行動目的が明確で、作品のスケールにふさわしいレベルの強さで暴れまわる。


ふたつの怪獣と人類の対立関係も、シンプルに整理されており、意外なほど見やすい。
あくまで「G消滅作戦」こそが人類の目的であり、メガギラスは作戦から派生して人類を阻害する存在として一貫している。
見る前はたかだか敵怪獣を生みだすためだけに人工ブラックホールなどという超科学技術を設定するのかと疑問に思ったが、むしろ技術を人類がどのようにあつかうかが物語のテーマであり、メガギラスは技術の負の側面のひとつという位置づけだった。
ただ、それゆえ人類より前に敗北することが予期できるのに、お台場でのゴジラとの決戦が工夫もなく長すぎたことだけは難点。


最後に、特撮を目当てに見るには、残念ながら全体として安っぽい。物語を成立させる水準はクリアしているものの、逆に目を引くほど突出した場面がない。
主人公の初戦闘からして携行兵器をもった歩兵部隊しか画面に存在せず、対するゴジラも歩く振動で倒すのがゴミバケツという、自主制作映画のような貧しさが画面からあふれている。
前作ほどではないが、デジタルとアナログの質感が違いすぎる問題もある。特に水没した渋谷は、そのシチュエーションそのものは楽しいのに、3DCGの海面が当時の技術としても噓くさすぎる。ミニチュアと実物大セットの組みあわせだけで表現するべきだった。
先述したようにお台場での決戦は、だだっぴろいミニチュアセットで巨大感もなく対峙するだけで、合成で平面的な高速移動をくりかえすメガギラスのアクションもつまらない。

*1:感想はこちら。『ゴジラ2000 ミレニアム』 - 法華狼の日記

*2:超小型ロボットを民間でつくったり人工知能的なプログラムをコンピュータに組みこむ青年など、いかにも同時代のウルトラシリーズに登場しそうなキャラクターだ。

*3:たとえば渋谷が水没するという環境激変を、どのようにメガヌロンがおこなったのか、画面からはさっぱりわからない。