法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』わすれとんかち/アヤカリンで幸運を

今回も前後とも原作ありで、嶋津郁雄作画監督らしくシャープな描線が楽しめた。


「わすれとんかち」は、いつもの日常に記憶喪失の男が乱入してくる。スネ夫に追い出された男に同情したのび太ドラえもんは、記憶をひきだす秘密道具を出してやるが……
巨大なトンカチで頭をなぐると記憶がスクリーンへ投影されるが、かわりに多くのリスクも負うという秘密道具の設定がすさまじい。殴りあった結果として全員の頭が変になるというオチなど、いかに初期原作らしい直球のブラックぶり。
作画が整っているだけでなく、キャラクター芝居の動きが多いところも良かった。特にゲストキャラクターが悪人としての記憶を思い出してからの怪演が出色で、極端なパースに逆光的な影付け、デフォルメされた動きの全てが素晴らしい。
ただ原作を読んだ時から思っていたが、ゲストキャラクターの正体に誰かひとりくらい気づくのが自然だろう。たとえば原作には出てこないパパがすれちがって、見たことがある顔だと評するような描写があっても良かった。


「アヤカリンで幸運を」は、いつものように不幸がつづくのび太のため、他人の幸福にあやかれる秘密道具が登場。しかし時間がたつごとに効果が薄れるのが問題で……
幸福をえるための行動が期待外れに終わる皮肉を連鎖させながら、最終的に悪くない結果に落としこむ。幸福をえるためには結局のところ努力が必要ということか。
展開としてはきわめて原作に忠実。時間配分はいつもどおりなのに、起きる出来事に増減がないところが珍しい。ドブさらいや野球シーンなど、じれったい時間が流れている描写を長めに見せるという、強調すべき場面だけ印象づけて流れを崩さない手法が成功している。
映像面では、とぼとぼ帰宅する場面の俯瞰で背景動画を使うコンテが珍しい。