法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『裸足の夢』

独立を果たしつつも内戦が尾を引き貧困がつづく東ティモール。そこにサッカー選手をドロップアウトした韓国人キム・ウォンガンがやってきた。
勢いで新しい商売に手を出しては失敗ばかりのウォンガン。東ティモールに来たのも、コーヒー事業の儲け話に騙されたためだった。
すぐに帰ろうとしたウォンガンだが、子供たちが素足でサッカーしている姿を見て、小さなスポーツ用品店を独占事業にしようと思いつく……


東ティモールと韓国、そして日本をつなぐ2004年の実話にもとづいた2010年の韓国映画。スポーツをとおした再生のドラマを約2時間で過不足なく描きだす。

監督は脱北者を描いた劇映画『クロッシング*1キム・テギュン。主人公は 『依頼人』のパク・ヒスンで、彼を助ける大使館員を『義兄弟』のコ・チャンソクが演じる。さらに東ティモールで商売をしている日本人を清水圭が演じて、意外な役者ぶりを見せる。
東ティモールでロケした映像もまったく隙がない。やや黒味の強い、BBCのドキュメンタリードラマのような質感。教科書的になめらかなカメラワークが基本だからこそ、銃撃戦の一夜だけ手持ちカメラで映像をブレさせる技法の印象が際立つ。サッカー描写も状況の推移が映画としてわかりやすい。


サッカーにくわしくないので、モデルとなった実話との違いや描写の妥当性はわからない。しかし少なくとも劇映画としては素直によくできていたし、実話を知らないからこそ結末の展開で素直に驚くことができた。
まず、スポーツ物において、利己的な主人公が純真な子供たちに感化されていく展開は定石だ。しかしこの映画はほぼ終盤までウォンガンのダメな性格が変わらない。勢いで商売に手を出しては、狡猾にたちまわろうと動いて後戻りできなくなっていく。
貧しい社会では客がなかなか買わないからと、先に子供たちへスパイクシューズをわたして、言葉たくみに1日1ドルのローンをくむ。一方のチームだけに売ることで、シューズの優位性を実感させる。そのチームへ指導を始めるのも、試合に負けるとグラウンドの使用権を失い、意味のなくなったシューズがつきかえされてしまうから。敵チームの有望な子供をひきいれようと工作したりもする。
主人公がつまらない欲望にまみれているからこそ、幸せな未来をつかみたいという子供たちの欲望のけなげさに観客としても共感しやすい。親切で善良な大使館員が端々で手助けし、同時に主人公の愚かさを批判もするから、見ていてストレスがたまりすぎることもない。
そんな主人公だが心底の悪人ではなく、勢いで物事を始めるからこそ、時には英雄的な行動をとったりもする。しかしその英雄的な行動でさえ、尾を引く内戦には無力なままで、むしろ新たな危機をよびこんでしまう。成功と失敗が自然に連鎖し、反復しつつ結末へ向かっていく構成の見事さ。