法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』見えなくなる目ぐすり/目は口ほどに物を食べ

今回は前後とも原作あり。


「見えなくなる目ぐすり」は、ジャイアンから漫画をとりかえすため、のび太が秘密道具で透明人間になろうとする。しかしドラえもんが急いでいたため、奇妙な行き違いが……
原作からして、目にさすと透明になる目薬という秘密道具の存在を前提として描かれる。その秘密道具の機能は、目の水晶体が人間の肉体で数少ない透明な部分であることに由来しているのだが、そのあたりの説明が原作にまったくないので初読した時はとまどったものだ。
とはいえ、日本語の多義的な解釈によって、他人が見えなくなる目薬をドラえもんがわたしてしまう導入は楽しいものだ。そこから無人に見える街でさまざまな物が動くという面白い情景が展開される。
無人の街を素直に動かすだけでもアニメ化の意義があるわけだが、問題に気づいたドラミたちの視点で情景を反復するアレンジが素晴らしい。アニメスタッフに手間をかけさせず、のび太から見た奇妙な情景と、のび太が奇妙な行動をとる様子で、二重に楽しめる。特にブランコの真実は予想していたつもりが予想できていなくて、性的ギャグを視聴者への性的サービスにならないよう展開していて感心した。
前後するが、ドラえもんの急いでいる理由を明確に設定したアレンジも説得力あってうまい。そこから原作では作者が登場して読者へ解説するところを、アニメではドラミちゃんが視聴者へ解説する描写へと自然に変更できた。そして前述のように同じ情景を違う視点から見る展開へつなげる。見事だ。


「目は口ほどに物を食べ」は、骨川家のフランス料理に対抗して、野比家もフランス料理を対抗しようとする。しかしママのフランス料理を待てず、ついつい秘密道具を使ってしまい……
美味しい料理を写真だけで味わえる秘密道具を、さまざまな状況で使ってしまう物語は、プロットとしては単調ではある。ひさしぶりに従兄弟が登場したりと、多様なキャラクターの行動で楽しませるドラマという意味合いが強い。
アニメ化において描く料理を多様にして、その表現も色彩や質感などを美味しく見えるようこだわってはいる。しかし料理の種類を増やしているだけなのでプロットの単調さを強調しているきらいもあった。TV番組でワサビがいきなり登場して予期せず辛味を感じてしまったように、写真や映像の料理が実は偽物だとか、写真映えを優先して食べられないよう加工していたとか、そういう失敗もアレンジしてくわえれば、もうちょっと起伏が生まれたように思える。