法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

語彙力の低いWEB漫画『風来包丁漫遊記』が「マジヤバイ」

読者の語彙力にあわせて「普通」「低い」「高い」の3種類から選べるという趣向。


まず、「普通」として示された漫画はオーソドックスな料理漫画のパターンをふまえている。
世界初!語彙力を選べる料理漫画「風来包丁漫遊記」 | オモコロ
シャープな描写でていねいに描かれていて、登場人物も食材も作者の絵柄で描きわけられ、基準として本当に「普通」によくできている。



「高い」バーションの漫画は、コマ割りや絵は同じもので、フキダシ内の台詞だけ書きかえてある。
世界初!語彙力を選べる料理漫画「風来包丁漫遊記」 | オモコロ
ただし、きどった台詞回しのシュールさを笑うためのギャグ漫画であり、実際に語彙力がある感じはない。国語辞典で調べた言葉を文脈を考えずに当てはめているかのようで、かたい四字熟語とくだけた故事成語が乱雑に混在している。
本当に語彙力を活用した作品とは、登場人物の社会的立場にあわせた台詞を作りあげてこそ生まれる。もちろん、この高語彙力版はギャグとして読めば問題はない。


素晴らしいのが「低い」バージョン。やはりフキダシ内の台詞だけ置きかえているが、シンプルな言葉づかいが漫画として絵の強みを引きだしている。
世界初!語彙力を選べる料理漫画「風来包丁漫遊記」 | オモコロ
何より指示代名詞におきかえた台詞回しが、日常の風景をそのまま切りとったかのような雰囲気を生んだ。結果として高度な読解を読者に要求するかたちとなり、シャレたサブカル漫画のようですらある。それでいて先に「普通」さえ読んでおけば、内容がわからなくなることもない。


もともと漫画でも、小説でいう言文一致運動にあたる動きがある。
おそらく現在の潮流はあずまきよひこあずまんが大王』を源流としており、最近も今井哲也ハックス!』や三上小又ゆゆ式』といった作品を生みだしている。
漫画「ハックス」の口語表現のリアルさについて - Togetter

作者が意図したかどうかは知らないが*1、『風来包丁漫遊記』の低語彙力バージョンも、漫画の言文一致運動につらなる一作品のように感じた。

*1:以前に特集のため多くの4コマ漫画を読んだ時、『あずまんが大王』だけが琴線にふれたというツイートをしていた。凸ノ高秀 on Twitter: "今回の特集のために4コマ漫画を色々と読んでみたのですが「あずまんが大王」がすごく面白かったです。"