法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

自然の力のみに子供の病気をまかせようとする幼稚園

教育勅語唱和や国歌斉唱に力をいれ、安倍晋三首相夫人に応援されていることでも知られる塚本幼稚園。小学校にも手を広げている。
【関西の議論】安倍首相夫人・アッキーも感涙…園児に教育勅語教える“愛国”幼稚園 「卒園後、子供たちが潰される」と小学校も運営へ(1/4ページ) - 産経WEST

教育勅語」や「五箇条の御誓文」の朗唱、伊勢神宮への参拝・宿泊…。大阪市淀川区に超ユニークな教育を園児に施している幼稚園がある。塚本幼稚園幼児教育学園。安倍晋三首相夫人が同園を訪れたとき、園児らのかわいらしくもりりしい姿を見て、感涙にむせんだという。さて、その塚本幼稚園の籠池泰典園長が、小学校運営に乗り出している。


その幼稚園に子供をかよわせていた保護者の告発を、匿名でまとめているブログがある。
http://ameblo.jp/tsukamotoyouchien/
PTA運営の不透明さを批判するエントリが話題になっていて、私はそれで存在を知った。
はてなブックマーク - Bさんの事例 ~現在係争準備中~|塚本幼稚園 入園を考えている方へ
そして多数ある告発のひとつに、副園長がインフルエンザと風邪を同一視しているという批判があった。
http://ameblo.jp/tsukamotoyouchien/entry-12189076438.html

インフルエンザは感染症ですので、学校保健安全法及び法施行規則により、

幼稚園の場合、

「発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後三日を経過するまで」

は、出席停止となっています。

そして副園長が自論をたれながしているプリントと、高熱なのに登園を指示されたという話をふたつ紹介している。


もちろん、どれほど物的な証拠らしき画像を示していても、匿名が基本のブログを安易に信用するべきではないだろう。
同時に、さまざまな圧力をちらつかせる幼稚園、それも私立ゆえに行政の介入を期待できない状況では、保護者が匿名の告発を選択するのはしかたない。
だからブログだけならば情報については半信半疑になるとして、子供をあずかる幼稚園側の説明がほしいというくらいの感想になる。


しかし、塚本幼稚園がインフルエンザと風邪を同一視している問題は、告発ブログだけが主張していることではない。
塚本幼稚園の公式サイトに、籠池諄子副園長の文章として、下記のような文章が2015年1月に公開されている*1
http://www.tukamotoyouchien.ed.jp/kotoba0110.html

毎日、お母さんから手渡される薬を見ると、信念のないお母さんほど医者に頼られます。いわばこれも流行に弱い人がかかるようです。もう少し強くなりましょう。

そして元ネタがはっきりしない文章を引いて、ウイルスが生物と物質の中間的な存在という中途半端な知識から異様な主張を展開させていく。

東洋医学の不思議」引用


こうやって人間は段々とと進化して神様に近づいていかなくてはならないのに、薬ばかりに頼るから人間の身体はどんどん退化していく。私はこれは間違っていると思います。だから私は薬を絶対に飲まない。飲まないで死んだら本望ですよ(笑)。祖先からいただいた抗体に頼る。なんでもかんでも薬に頼らないで、自分の内なる力で病気を治す。どうしてこれをしないのかと思うんですよ。どうやったら自分の力で治すことができるのか。それを考えて、そしてどうしてもあかんという時は、まあ薬の助けを借りたらいいと思うんです(笑)。

あたかも薬の助けを認めているようだが、同じ元ネタらしき文章には、前提として生物淘汰による進化の必要性が明言されていた。
健康とは | がんばらないけどあきらめない - 楽天ブログ

いまエイズという病気に罹りますと百パーセント死ぬと言われています。エイズは、エイズウイルスが体の免疫細胞の遺伝子を破壊して、体に免疫力がなくなるので、抵抗力がなくなって死ぬのです。これはエイズという病気を日本人が経験して、まだわずか十年かそこいらしかたっていないからです。思いますに、これから何百年か、さらに何千年かたったら、エイズに対する抗体を持った日本人が現れるでしょう。そうするとエイズという病気は恐ろしくなくなる。つまり進化するわけです。こうやって人間は段々と進化して神様に近づいていかなければならないのに、薬ばかりに頼るから人間の体はどんどん退化していく。私はこれは間違っていると思います。だから私は薬は絶対に飲まない。飲まないで死んだら本望ですよ(^_^)。祖先からいただいた抗体に頼る。なんでもかんでも薬に頼らないで、自分の内なる力で病気を治す。どうしてこれをしないのかと思うんですよ。どうやったら自分の力で治すことができるのか?。どうしてこれをしないのかと思うんですよ。それを考えて、そしてどうしてもあかんという時は、まあ薬の力を借りたらいいと思うんです(^_^)。

「段々とと」の誤記がないことや、顔文字と「(笑)」の表記等で違いはあれど、たぶん元ネタは同じと考えていいだろう。
全体を読めば、「飲まないで死んだら本望」が医療忌避のための誇張表現ではなく、本心からの発言と解釈せざるをえない。ダーウィン*2を意識的に実行しようとする人間が実在するとは思わなかった。


そして副園長は、医者が解熱剤を出すことを否定して、布団にくるまって汗をかかせたらそれでいいと主張する*3

熱を下げてくれということを言うわけです。医者は下げてはいけないと知っていても、下げなかったらあいつはやぶだと言われかねない(笑)。それで、仕方がないから解熱剤をを出す。そうするとせっかく体がウイルスをやっつけているのに、薬で熱を下げてしまう。熱が下がってまたウイルスが元気になってくる。そうするとインフルエンザがなかなか治らない。そのウイルスが体外に出ていくから、それが広がって病気が流行する。悪いのはウイルスではなくて人間が悪い(笑)。まさしく悪循環ですね。
 一番最初にインフルエンザにかかった人間が卵酒でも飲んで、布団にくるまって汗が出るまでやっていてくれたらそれで終わりなんです。蔓延しないです。だけどすぐ解熱剤を飲んで、待たないでしょう。患者が悪いんです。

さらにウイルスは遺伝子を破壊する目的をもっているという不思議な知識にもとづき、不自然でなければウイルスは寄ってこないと主張する。

たいてい病気を起こすウイルスは、遺伝子のなかの不自然な情報を好んで破壊しようという作用がある。だから不自然でないところにはやってこない。人間が不自然な情報を遺伝子のなかに持つからやってくるんです。不自然な情報を持っていなかったら、ウイルスなんて寄ってこない。ウイルスが不自然な情報をキャッチしているから、あそこに不自然な情報、遺伝子があるなと、それに向かってやってくるんです。人間が呼んでいるようなものです。だからご先祖さま、神さまもありがとうございましたと。自然の情報ならウイルスは寄ってこないんです。


 インフルエンザにかかるというのは、不自然なものがあってそれで・・・


 あるんですね。本当はそうなんですよ。勝手に入ってこない。自然はそんなことになっていないんです。テレビと同じで、テレビの電波がどうしてテレビに映るかといったら、テレビのほうで同じ波長の電波を出すから、共鳴するわけでしょう。そこで写ってくる。このシステムです。だからウイルスが出している波動と同じ波動がこちらになければ、こちらに寄ってこない。ウイルスだって遺伝子を持っているんだから、波動を出しているわけでしょう。それと同じ波動を持っている人間を狙っているわけです。あそこに同じ波動があるというとピューっと来るわけです。その人がウイルスを好んでいらっしゃいと言っているようなものです(笑)。

右派は社会変化を病因と考えつつ、個人に責任を求めて自助努力で治癒させたがる。それが医療忌避につながることもある、といったところか*4
この文章を公式サイトで掲載していることは、幼稚園の科学教育への不信感をいだかせるにも充分だ。


ついでに、テレビが出す電波と共鳴してテレビが映るという説明もよくわからない。
検索してみると、比喩にもちいるため一部で常識的にあつかわれている思考らしい。統一協会系団体「家庭連合」の教育部長ブログや、地方議員団体「龍馬プロジェクト」に所属しているという人物のブログで、似た記述を見つけた。
共鳴して神様を映し出す - 教育部長の講義日記

放送局からテレビへの一方的な電波だけではテレビには何も映りません。

放送局から発信する電波と同じ波長の電波をテレビ自体が発信してこそ、そのテレビに映像が映るのです。
これを共鳴と言います。

http://ameblo.jp/arigataki-siawase/entry-12129813798.html

テレビが映る仕組みは、テレビアンテナから、放送局と同じ周波数の電波を発信することで、アンテナの電波と放送局側からの電波が、同調・共鳴するから受信した画像が映るのです。

たとえば、8chの番組を見ようと思えば、こちら(テレビ)側から先に、8chの放送局と同じ電波を発信しなければ、番組を受信する(引き寄せる)ことができない仕組みです。

他に『「ありのまま」で願いが叶う「魔法の法則」』という書籍に「マグネットの法則」として記述されているが、2014年に出版されている。教育部長ブログは2010年に書かれているので、元ネタはさらに古いはずだが、まだ見つけられていない。どこかで携帯電話のしくみと混同したならば、さほど古い元ネタではないと思われるが。

*1:引用時、改行を排した。

*2:「あまりにも下らない死に方で、劣悪な自らの遺伝子を絶って人類の進化に貢献した人物に贈られる」というブラックジョークイベントで、コメディ映画化もされている。ダーウィン・アワード - 作品情報・映画レビュー -KINENOTE(キネノート)

*3:これ以降も元ネタがある引用文なのかもしれないが、副園長の文章では引用範囲がはっきりせず、明確な元ネタも確認できなかった。ただ引用文にしても、その内容を肯定していることはたしかで、副園長の主張と同等に考えて間違いないだろう。

*4:一方で左派については、権威への不信感を動機にして医療忌避する傾向があると思っている。きちんとした根拠は示せないので動機については印象論だが、右派でさえなければ医療忌避しないということはない。