法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

稲田朋美防衛大臣が、誤解を払拭したいと語った直後、持論の封印に失敗

防衛大臣に就任して初めて、8月4日におこなわれた記者会見でのこと。
防衛省・自衛隊:防衛大臣臨時記者会見 平成28年8月4日(17時14分~17時42分)
まず、各メディアに右翼視されている現状に対して、誤解をといていきたいと語っている質疑がある。

Q:大臣の就任が決まってから、中国やフランスのメディアなどが、右翼政治家と指摘していたと思うのですけれども、大臣のそれについての御見解と、自分をどういう政治家だと。


A:多分、弁護士時代に関わっていた裁判などを捉えられたりされているのではないかというふうに思っておりますけれども、私自身は、歴史認識の問題について、様々な評価はあるでしょうけれども、一番重要なことは客観的な事実が何かということだと思います。私自身の歴史認識に関する考え方も、一面的なものではなくて、やはり客観的事実が何かということを追求してきたつもりであります。その上で、私は、やはり先ほども申し上げましたように、東アジア太平洋地域の平和と安定、そしてそのためには、中国、韓国との協力的な関係を築いていくということは不可欠だろうというふうに思っております。いつでも、私は、交流というか、話し合いの場を自分から設けていきたい。そして、議論することによって、私に対する誤解も、多分払拭されていくのではないかというふうに思っております。

この直後、ひとつの質疑をはさんで、「弁護士時代に関わっていた裁判」のひとつについて稲田大臣が見解を出した。

Q:海外メディアは、大臣の歴史問題に関しまして、南京事件について御見解がいろいろあると思うのですが、聞きたいということと、防衛省の正式な見解では、非戦闘員の殺害、略奪行為をやったことは否定できないと。正しいか、いろいろな説はあるのでどれかとは整理はできませんとあるのですけれども、この見解についてはどう御覧になられますか。


A:私が、弁護士時代取組んでいたのは、南京大虐殺の象徴的な事件といわれている百人切りがあったか、なかったか。私は、これはなかったと思っておりますが、そういったことを裁判として取り上げたわけであります。それ以上の歴史認識については、ここでお答えすることは差し控えたいと思います。

しかし、百人斬り裁判で原告側代理人となった稲田弁護士は、最高裁まで負けつづけて裁判を終えた。
http://homepage3.nifty.com/ryo-folklore/intisol/hyakunin.htm

2006年12月22日最高裁で勝訴が確定しました
2006年5月24日東京高裁でも勝訴
2005年8月23日東京地裁判決 勝訴


判決文へ(一審・二審)

右派の歴史学者*1も新証言を発掘し、むしろ歴史学の見解を完全に固めた。
稲田朋美氏の新著、予想どおり「秦郁彦論文」をスルー - クッキーと紅茶と(南京事件研究ノート)

秦氏は昨年、N大尉が「地元の小学校/中学校で捕虜殺害を自ら公言していた」ことをヒアリング調査し、その結果を明らかにしていた。志々目彰氏の証言と同内容の証言を得たわけである)

しかも遺族の心情を害してまで政治利用した問題で、原告側から懲戒請求まで起こされた。
◆ 美しい壺日記 ◆ 続「百人斬り」訴訟で旧日本兵の遺族敗訴

つくる会東京支部掲示
画像キャプ:http://uproda.2ch-library.com/src/lib022854.jpg魚拓

そんな百人斬り事件に対して、質問をかわすどころか「なかったと思っております」と明言してしまった。
「客観的な事実」と称するものの実態がよくわかる。
裁判という「話し合いの場」での結論を無視したことから、「交流」も「議論」も期待できないことがわかる。


だが、このような致命的としか思えない発言に対しても、高評価する反応が少なくない。
はてなブックマーク - 稲田防衛相、海外メディアの「右翼政治家」評価払拭する考え(フジテレビ系(FNN)) - Yahoo!ニュース

id:stand_up1973 いや右翼には違いないが、会見での記者の質問のクズっぷりが酷い。自身の醜悪な力への反省もないようだ。心の底からクズだと思う。稲田氏は上手くぶった切っていて正解。 http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2016/08/04a.html

はてなブックマークではstand_up1973氏くらいだが、百人斬り事件をピックアップしたYahoo!記事のコメント欄や*2、まとめブログ*3の反応になると一気に賞賛が増える。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160805-00000073-san-pol

ピアノフォルテ1125***** | 2016/08/05 08:00

おかしいことはおかしいと言うのは普通のこと。


エトピリカ | 2016/08/05 08:00

発言に全く問題なし。


yas***** | 2016/08/05 08:01

先祖の冤罪を晴らす為にも、頑張って欲しい。応援します。


そして過去の発言との整合性を問われて、撤回もできずに言を左右にしただけの場面にいたっては、朝日に「持論を封印」と表現された。
http://digital.asahi.com/articles/ASJ846DWZJ84UTFK00Y.html
むろん、さすがに記事本文では過去の発言と比較し、70年談話が侵略戦争と認めている内容ではないかとも指摘している。

稲田氏は2006年9月号の雑誌「WiLL」の討論会で、「単に『侵略』というのではなくて、改めて振り返る必要はあります」と述べるなど、侵略戦争との認識に疑問を呈していた。

しかし追及としては甘いといわざるをえない。もともとの質問にしても、政治家相手では「挑発」とは呼べないほどゆるいものだ。
そのためか、明言をさけた場面をつたえる記事に対しては、はてなブックマーク等でも好意的に見るコメントが少なくない。
はてなブックマーク - 稲田防衛相、侵略戦争だったかどうか明言せず 歴史認識問われ | ロイター

id:sasakisasao 大臣として真っ当な受け答えでは。政府見解に則って仕事をすることを宣言したわけだから。挑発に乗らなかったという意味ではクレバー。

id:zions この応答なら、在任中に歴史認識で失言する事はないだろう。

実態としては、稲田大臣のような立場であれば、失言が失言としてあつかわれないということだろう。sasakisasao氏の麻生大臣報道へのコメントからはっきりわかる。
はてなブックマーク - 麻生氏:いつまで生きるつもりだ…高齢者について講演会で - 毎日新聞

sasakisasao だから恣意的引用やめろって

明言しなかったこと自体が批判される政治家と、明言しなかったこと自体が賞賛される政治家。
民主政治が市民による権力の監視でなりたっているとするならば、後者のような甘やかしが良いとはいえまい。

*1:秦郁彦氏が右派の歴史家であることは、稲田大臣記者会見の質疑でも出てくる。

*2:引用コメントは共感が高い順番でならべた上位。

*3:保守速報 on Twitter: "保守速報 : 【南京事件】稲田朋美防衛相「百人切りはなかった」 https://t.co/Qj8rG237At"等。