法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「あにめたまご2016」の全4作品が6月11日まで無料配信中

アニメミライの旧称で知られる若手アニメーター等人材育成事業
あにめたまご2019
その2016年度作品がバンダイチャンネルで配信されて数日たつのに、再生数が800にもとどかない*1
ページがみつかりません バンダイチャンネル
たしかに今回はどれもNHK教育で放映されそうな低年齢向けのおとなしい作品ばかり。以前に話題をあつめた『リトル ウィッチ アカデミア』や、TVアニメ化にいたった『デス・ビリヤード』と比べて、視聴者をひきこむ要素が足りないのかもしれない。絵描きキャラや擬人化キャラや時代越境といったネタがかぶっていて、作品ごとの変化にとぼしい感もある。
それでも、きちんとひとつひとつ見れば相応に楽しめる手がたい作品であることも事実だ。どれも見て損はない。


『カラフル忍者いろまき』はIG傘下のシグナル・エムディ制作。父母につれられて田舎へひっこしてきた幼女と、時代をこえて姫につかえようとする忍者のコミカルな日常を描く。
デフォルメの強い、若手育成にしてはラフな作画に『クレヨンしんちゃん』を思いだしたら、そのローテーションスタッフの荒川眞嗣がコンテ演出を担当していた。全体として飛躍を感じる場面は少ないが、クライマックスの大変化は良いフォルムの作画が楽しめた。
監督と脚本とキャラクターデザインは芸人の小林賢太郎。忍者のキャラクターにもっと毒気がほしいが、奇をてらわない語り口で、映像を見せる土台としては悪くないかな。単純な田舎賞揚になりそうで、田舎の不便さを忍者に助けてもらうという構図が現代的。色の三原色を応用して能力と姿を変える忍者たちに、絵描きの父親の知識がいかされるところは教科書的。


『UTOPA』STUDIO 4℃制作。遠未来、人類は獣の性質をとりこんで天空でくらしていたが、ひょんなことから地上へ降りた3人の子供たちが冒険をくりひろげる。
世界設定の説明では静止画スライドがつづく。しかし本編に入ってからは頭身の低いキャラクターを、かっちりした描線でていねいに作画。3DCGで描画された森ともども、映像パッケージとして完成度が高い。このまま劇場にかけたりNHKで放映されても違和感ない。
ただ最後の対決が情景の変化が少ないわりに長すぎるし、そこで争奪するトゲトゲの設定も見えすいている。対決形式を決めた鷲の事情からして必要な知識が不足していたという可能性は感じるし、それが反省の弁につながるのだが、ゆえに説教くさい教育アニメという印象も強めた。対決で鷲側に視点を変えるタイミングを早めれば、もっと映像と物語にダイナミズムが生まれたんじゃないかな。


『かっちけねぇ!』手塚プロダクション制作。少女の住む寺の井戸から、江戸時代の青年があらわれる。ひょうひょうとしながら絵を描くことにだけは真剣な青年に、少女はいつしかひかれていく。
いかにも手塚プロダクションらしいアニメ。ファンタジーとSFがまじりあった人情劇は手塚治虫作品の一編であってもおかしくないし、絵柄も見るだけで手塚プロダクションと感じてしまう。かたまった社風のままていねいに完成されていて、新人育成らしさを良くも悪くも感じなかった。
青年に現在の東京を案内していく展開など、観光アニメのようでもある。この事業でしか作りえない作品という感じがしない。


風の又三郎は武右ェ門制作。宮沢賢治作品をもとにしつつ、在校生の多くを動物に、転校生を少女に設定。恋とすら呼べない少年少女の出会いをリリカルに描く。
キャラクターを3DCGで描写しながら、一見するとラフな手描きにしか見えない技術がすごい。動くと立体の正確さから手描きではないと気づけたが、スタッフ人数の少なさともども、アニメの未来を本当に感じる作品だった。
動物化された在校生のすっとぼけたキャラクターもいい。そのまま事件を起こさず、語りすぎず、まとめすぎず、これからつづく物語を予感させる。
ゆるやかな時間が流れる空間の心地よさを表現した短編アニメとして、今回のベスト。

*1:公式サイトの配信情報ページにも記載されていない。http://animetamago.jp/broadcast/