法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『桃太郎 海の神兵』の植民地描写が、どのようにカンヌ国際映画祭で受け止められたのか気にかかる

作品の位置づけについては、朝日新聞小原篤記者コラム「アニマゲ丼」にくわしい。
asahi.com(朝日新聞社):「海の神兵」を知っていますか? - 小原篤のアニマゲ丼 - 映画・音楽・芸能
その作品のデジタル修復版が上映されるとの情報は、シネマズがくわしく伝えていた。
日本初の長編アニメ映画『桃太郎 海の神兵』カンヌ国際映画祭で上映! | シネマズ PLUS

今回、松竹が保有する35ミリ・マスターポジとインターネガを素材に4Kスキャンし、2Kで修復。映像監修に『母と暮らせば』『家族はつらいよ』などの山田洋次監督作品のキャメラマン近森眞史、また今回はアニメーションということで、『紅の豚』などスタジオジブリ作品の撮影監督・奥井敦を映像監修協力に迎えています。

音響はアメリカのAudio Mechanicsが担当し、修復にあたりました。

制作は松竹映像センター、映像修復は株式会社IMAGICAと株式会社IMAGICAウェストです。

前後して、国策映画としての側面と、それでも戦後の日本サブカルチャーに影響を与えたことも指摘している。

本作でもっとも感動的なのは、中盤の「アイウエオの歌」を動物たちが大合唱するミュージカル・シーンですが、後に手塚が制作したTVアニメ『ジャングル大帝』の中には、本作と同じように動物たちに言葉を教える際の「アイウエオ・マンボ」が登場し、オマージュを捧げています。

ただし実際、当時の日本は南方占領地における現地人の日本語教育の一環として、こういった歌を歌わせていました。


上映にまつわる簡単な報道は朝日新聞などが伝えている。
http://www.asahi.com/articles/ASJ5G75XRJ5GULZU00C.html

松竹の高橋敏弘取締役が「国策映画ではありますが、手塚治虫を始め、後のアニメ作家に大きな影響を与えた歴史的作品だと思っています」とあいさつ。

 上映中、桃太郎軍に攻められる鬼たちの中にポパイそっくりの白人兵士がいる場面などでは、欧米の観客も屈託のない笑い声を上げていた。

くわしく伝えているかと期待した読売新聞だが、記事タイトルは映画祭全体についての感想で、作品単体の反応は少ない。
映画の作り手たちの複雑な心象 : エンタメ : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

戦闘シーンは圧巻の迫力ですが、ただ勇ましいばかりの映画ではありません。空を自由に飛ぶ鳥。望郷の思い。兵士たち、そして映画の作り手たちの複雑な心象がさまざまな場面にしのばせてあるのが、今見るとよくわかります。退治される鬼は、戯画化はされていますが明らかに白人の姿。カンヌの観客がどう見るか、ちょっとドキドキしたのですが、笑いも起こるなど反応は上々。すてきな上映になりました。


ひとりのアニメ好きとして気になるのが、ミュージカルパートに注目する記事ばかりで、他に見どころとしてあがるのが落下傘降下くらいなところ。作画アニメとしては、政岡憲三監督による影絵パートに見どころがつまっているのに。
そして、本編パートで日本の植民地政策を肯定的に描いていることに対して、影絵パートでは欧米による植民地政策を否定的に描いている。外国が過ちを正当化する描写と、自国の同じような過ちを批判する描写、どちらが欧米の観客には興味深く感じられるだろうか。そう思って記事をさがしたが、日本語では見つからない*1
むろん、映画祭に来るような観客であれば、自身の属する共同体を批判する映画を何度となく見てきた可能性があるだろう。他国のプロパガンダ作品を客観的に見る機会もあったろう*2。半世紀以上もたったプロパガンダ映画くらい、時代性を考慮して鑑賞することができるだろう。だからこそ、日本の報道機関も観客の反応にふみこんだ記事を書いてほしかった。

*1:イタリア語らしい記事は見つけたが、機械翻訳しても、作品解説を超えた内容は書いてなさそう。il manifesto

*2:たとえば日本でも熱心な映画ファンが『國民の創生』を見ることはできる。