法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

初代『ゴジラ』の撮影舞台裏を知るたびに、体罰は芸能に必要ではないと感じる

http://www.asahi.com/articles/ASJ5D644BJ5DUCLV00Y.html

 演出家として闘い続けた。若者たちを認めない新劇界を飛び出し、商業演劇では演出家を侮る俳優に灰皿を投げた。海外では、異国趣味への関心にとどまる批評に「俺は西洋の補完物じゃない」と、かみ付いた。


日本を代表する怪獣映画『ゴジラ』。直接の続編シリーズから最新作『シン・ゴジラ』のようなリメイクにいたるまで、あまたの関連作品がある。
そのようなシリーズで1954年に作られた初代に限定して、あらためて本編と特撮の両面から探求した書籍が2014年に出版された。

モブとして登場する大部屋俳優から、エキストラとして参加した一般人もふくめて、広範な関係者から証言や資料を引く。よく知られているはずの作品に、まだまだ隠れた興味深い逸話があることを教えてくれる。


高級住宅街に住んでいた本多猪四郎監督。演技のつたない若者に目配りして、末端のスタッフにも温和に接して、なごやかな現場で順調に撮影が進む。老若男女の役柄ごとに本多監督は手本を演じて、どのように演じればいいのか明確な指針を出す。
足りない予算をやりくりしていた円谷英二特技監督。この書籍でインタビューを受けているのは当時は助手のような弱い立場の者ばかり。撮影現場はベテランがはばをきかせているものだが、円谷監督は新人であっても良い提案は積極的に採用し、実力あるスタッフをのびのびと仕事させた。
末端まで平等に目をくばっていた本編監督と、実力に応じて公平に目をくばっていた特技監督。歴史に残る作品をつくりあげた両巨匠の仕事を見れば、さまざまな芸能で語られるハラスメントが必要悪ですらないと感じられる。


ちなみに、同時代に同会社で活躍した同年代の映像作家として、各インタビューの端々で黒澤明監督のエピソードも出てくる。
どちらかといえば完璧主義ゆえのこだわりがスタッフや上層部に負担をかけたというもので、よくある暴力的なハラスメントとは違うのだが、なのに鬼畜の所業と感じるほどの内容。
この書籍にはテーマとして関係ないのに、よくイメージされるような裏話が出てくる黒澤監督には戦慄するしかなかった……