法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン 業火の向日葵』

芦屋家が所有していたが、太平洋戦争の戦火で燃えたとされるゴッホのヒマワリ画。そのゴッホ自身による模写が発見され、鈴木財閥がオークションで競り落とした。
鈴木財閥は世界中からゴッホのヒマワリ画を7点とりよせて、「日本に憧れたひまわり展」を開催する計画を立案。そのために7人の専門家を集めていた。
しかし宝石ばかりねらうはずの怪盗キッドがあらわれ、新発見されたゴッホのヒマワリ画を盗むと宣言する……


映画シリーズ19作目。前作*1につづいて静野孔文監督、前々作*2と同じ櫻井武晴脚本という布陣。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ
序盤の森久司作画っぽい怪盗キッドのアクションや、ハッチ爆破からの大規模な飛行機事故、特殊な地形にたてられた美術館の崩壊など、見せ場は多いしバラエティがある。アクション映画としてはそこそこ楽しいものだった。


しかしミステリとしては致命的な問題がいくつもあった。約112分の作品を本編ノーカットで放映したとは思えないほど説明が足りない。以下、ネタバレ気味に真相にふれていく。
良かったといえるのは、怪盗キッドがヒマワリ画をねらった動機くらい。本当に怪盗キッドなのかと疑われるほどスマートさに欠けた行為で、偽者という可能性を示唆しつつ、それなりに納得できる真相に落としこむ。この要点にしぼった物語を展開するべきだった。愉快犯的に主催者へ警告するため行動していた逆転の構図を、もっと強調しながら意外性を増す方向で見たかった。
次に、7人の専門家にヒマワリ画に因縁がある者が2人いるが、それぞれ動機の伏線がまったくない。発見者の東幸二は、ヒマワリ画にまつわる個人的な歴史が長々と告白され、そこで関係者の自殺が事故的な殺人だったと語られる。ゴッホの自殺やヒマワリ画の歴史とからむような事件で、どうしても残したかったのだろう。しかし犯人の自白内で事件の存在が初めて明かされて、自白内で解決してしまった。戦中日本を被害者とするような物語を相対化する事件のようにも感じたが、それでも映画全体から見ればノイズでしかない。


そして鑑定士の宮台なつみだが、監視カメラのカモフラージュをかねて造花のヒマワリをイベント会場にならべるという提案をたてる。その造花のヒマワリを利用した犯行がおこなわれて、それで宮台なつみが犯人と指摘されるのだが、犯人が臨機応変に対応した可能性は検討されない。
明かされた動機は、発見されたヒマワリ画を偽物と考えて、自分ごと消そうとしたというもの。しかし科学鑑定の結果で本物と判明しているという指摘で、あっさり論破される。いきなり出てきた動機が、映画の序盤で説明された情報だけで崩されてしまった。その情報を真犯人だけが知らなかったというパターンですらない。
しかも榮倉奈々が宮台なつみの声優を担当しているため、解決シーンで長々と会話すればするほど違和感を増した。発言に説得力がないことは劇中で指摘されるとおりとしても、内在的な動機の説得力まで欠けては意味がない。この映画は他にもイベント的に子供をつかった台詞がノイズに感じられてしかたがなかった。


最後に、変装にまつわる致命的な問題がある。
イベントでは特殊なセンサーをつかって変装をふせぎ、それゆえ怪盗キッドは姿を変えずに工藤新一になりすました。しかし7人の専門家の1人として、助手の老人が変装していたことが結末で暗示される。
どんでん返しをくりかえしていると、いつしか前提と矛盾してしまうという失敗をしてしまった。この助手の老人が芦屋家のヒマワリに因縁があり、怪盗キッドが絵画を守ろうとした動機になるわけだが、それはそれとしてセンサーを変装で突破してしまったことへの説明は必要だ。