法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』

平家の財宝を求めて、平氏と源氏の子孫が山奥の村で対立していた。両勢力に村人はしいたげられ、保安官もあてにならない。
そこに現れた凄腕ガンマンの男をとりあい、両勢力の抗争が劇化。そのなかで、さらなる凄腕ガンマン「血まみれ弁天」の伝説が聞こえてくる……


三池崇史監督による2007年の和風西部劇。日本を舞台にしつつ登場人物は英語をしゃべり、無国籍な世界観で展開される約2時間のアクション大作。
http://bd-dvd.sonypictures.jp/sukiyakiwesterndjango/
巨大なオープンセットと、それを使いきった銃撃戦と大破壊。複数の思惑がいりみだれながら、整理されてわかりやすい物語。悪ふざけのような人体破壊……等々は良かった。露骨な書き割りセットで描かれたアバンタイトルの昔話や、クライマックスの雪景色も良い意味で印象に残る美しさ。
しかし残念ながらアクション自体の楽しみが弱い。邦画としては充分に手間がかけられていて、ひとつひとつの戦いにバラエティあるアイデアをこめているのだが、とにかくしつこい。最初は楽しめても、途中でオチに見当がつき、決着がつくころには飽きてしまう。死にかけた人物の苦悶や遺言もしつこく映すから、冗談のような死にざまでも湿っぽくなってしまう。
このしつこさは三池監督の悪癖という気がしてならない。ホラー映画ならストレスをためる演出として効果的だが、アクション映画だとカタルシスをそいでしまう。同じプロットでも100分以内に切りつめれば、B級アクション映画としてテンポ良く楽しめただろう。


凄腕ガンマンの存在感が中盤から消え去るのも問題か。登場時に両勢力から重要視されたほどには強くなく、中盤であっさり傷つき前線から退いてしまう。群像劇であったとしても、いやだからこそ、軸となる人物は強固な存在でないと全体が平板になってしまう。
かわりに途中から伝説のガンマン「血まみれ弁天」が存在感を出していく。本編とは別の場所、別の時間を描いたアバンタイトルの出来事が伏線となり、中盤からドラマの軸としてそそりたつ。男たちのプライドが欲望にまみれて弱者を無視したものにすぎないと、その存在そのもので示していく。
邦画としては豪華な俳優が集まっているところで伊藤英明を主人公にしたのは、ひょっとしたら途中で実質的な主人公を交代させるためかもしれない。俳優のキャリアも英語力も「血まみれ弁天」が圧倒的にまさっているし、アクションも意外なほど絵になっていた。しかし、だとすれば中途半端だ。最後にとってつけたように伊藤英明を決闘させても、ビジュアルは悪くないものの、ドラマとしてのもりあがりには欠けた。
いっそ中盤で伊藤英明が倒れた時に退場させて、見せかけの主人公にすぎなかった*1と示せばドラマとテーマの筋がとおったし、意外性も生まれたかもしれない。

*1:たとえばアンチ西部劇『許されざる者』のイングリッシュ・ボブのように。『許されざる者』 - 法華狼の日記