法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』なんでも材質変換機/雪だるまは忘れない

原作のある前半と、アニメオリジナルの後半と。作画監督の川重希はベガエンタテイメント所属で、これまでは原画や動画検査で参加。エフェクトは古臭いが、前半のタイヤの山が細かく崩れるあたりや、後半の雪だるまの無言芝居など、こまごまとした見どころがあった。


「なんでも材質変換機」は、光をあてて材質を変える秘密道具が登場。まず、よく野球で割ってしまうガラス窓を鉄に変えて、安心して野球をはじめたが……
アニメ独自の見どころが映像表現。作画でそれらしい動きをアニメートできているだけでなく、素材が変わったことをデジタル技術で表現している。布に変えたドアの表面が布地のようになっていたり、紙でつくった服がクレヨンで色を塗ったようになっていたり*1、ビニール化した家がゆがむ様子をモーフィングで動かしたり。
あまり好きではなかったのが、中盤のアニメオリジナルの長さ。原作ではスピード違反の自動車を紙にするだけだが、今回のアニメでは黒背広にサングラスの強盗とマンガチックなアクションをくりひろげる。騒動そのものは楽しかったのだが、それまでが近所での子供たちの物語だったから、大きな問題が長々と描かれると物語の重心が崩れてしまう*2。銀行強盗との対決はアニメオリジナルエピソードにして、今回はジャイアンからの逃走劇をふくらませる方向でアニメ化してほしかったかな。


「雪だるまは忘れない」は、空き地でつくった雪だるまを家に持って帰ろうとして、秘密道具でロボット化。しかし雪だるまは不思議な行動をつづける……
寺本幸代コンテ演出の「雪だるまが町にやってきた」*3を思いださせるシチュエーションで、正反対の味わいがあるアニメオリジナルエピソード。雪だるまが言葉をしゃべらないので、動作だけで全てが表現される。そこにアニメーションの根源的な楽しみがあった。その行動の真意をひもとく展開で、物語への興味も持続する。
まず、ジャイアンスネ夫の雪玉クロスボウという現代的オモチャに対抗して、スノーピッチャーという自動投雪機をつかって敗北したり、前半の雪合戦がけっこう楽しく描写されている。だから「とどめ」で雪だるまが攻撃されたことで、復讐に見せかけて雪だるまも遊びたがったのかと思うと、さにあらず。雪だるまはマフラーをほしがったり、ミカンで自分の鼻をつくったり、奇行にはしっていく。
そこでドラえもんたちは、かつて水だった雪だるまの記憶を追って、ジャイアンとの因縁を知っていく*4。そこから弥生時代から雪だるまで遊ぶ子供たちがいたという、今度の映画とつなげた展開が始まる。一応、昔から雪だるまに近い遊びがあったのは史実らしい。
そして、ジャイアンも幼いころに雪だるまをつくって、その時は優しくあつかっていた光景が「水ビデオ」に映る。だから雪だるまもジャイアンに再会したかったのだと納得し、みんなで応援しようとする。その感動を後押しする演出の長さで結末の見当がついてしまったが、嫌いではない。

*1:技術的には「ほんものクレヨン」で使われた手法。『ドラえもん』ほんものクレヨン/かぜぶくろといんちき薬 - 法華狼の日記

*2:原作でも唐突に強盗と出会うエピソードは多いのだが、それが主軸でないエピソードはあっさり解決するし、主軸になる場合はオチと密接にむすびつく。

*3:『ドラえもん』動物変身恩返しグスリ/雪だるまが町にやってきた - 法華狼の日記

*4:しかし「水ビデオ」の情景を水の記憶としてあつかい、そのような記憶が雪だるまの行動を左右したのなら、「ロボットのもと」ではなく「無生物さいみんメガホン」「たましいステッキ」あたりの生物化する秘密道具をつかうべきじゃないかと思った。