法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season14』第15話 警察嫌い

あるアパートで起きた殺人事件。冠城は杉下の活躍を見たがるが、すぐ解決するだろうと杉下は考えていて何もしない。
事実、すぐに容疑者がつかまったし、目撃者もあらわれた。しかし容疑者は3人いて、目撃者も口を閉ざす……


かなり社会派なテーマをあつかいながら、どこまでもコメディタッチで描くという珍しいエピソード。脚本はシリーズ立ち上げ時から支えつづけてきた輿水泰弘
あっさり容疑者が3人あがり、その全員が自白してしまう。被害者の父親がヤクザなので、捜査する警察と奇妙な協力関係が生まれる。目撃者が撮影した証拠を押収するため、別件逮捕しようとしてはばまれる。冠城は杉下を表舞台にひきずりだそうとして、警察の捜査がしばしば違法であったり恣意的であったりした問題を利用する。
ひとつひとつがドラマ1話分つくれそうなネタをつめこんで、ドラマでしか描けない視覚的な方法での事件解決がおこなわれた*1。ヤクザと警官が秘密裏に相談する中盤でのモブシーンが、いい具合に結末の伏線となっている。


重要なのは今回、登場人物の誰にも正義などはないことだ。愛人に生ませた被害者を認知して、表向きは善良な市民をよそおっているヤクザが最もまともに見えるほど。
目撃者が真相を語らない理由は個人的に警察が嫌いなだけで、事件とかかわりがあるわけではない。冠城は興味本位で杉下の活躍を見たがっているだけであり、別件逮捕をやめさせる一方でヤクザを利用した脅迫にもためらわない。そして杉下はつまらない事件に気のりせず、他の捜査班がおこなおうとしていた別件逮捕を許容し、最後は市民を罠にはめるように事件を解決する。
これまでの相棒とちがって、杉下という名探偵の暴走を楽しもうとする冠城だからこそ、その捜査がしばしば違法な領域にふみこんでいることを率直に指摘できる。返す刀で、警察一般に別件逮捕や自白強要の問題がはびこっていることも指摘できた。
あくまで私利私欲で警察の問題を利用するから、説教くさくならない。結果的にせよ、社会悪が自然に浮かびあるという構図になっている。

*1:写真で面通ししようとして失敗したかに見せて、店の客に容疑者をまぎれこませて反応を見るという、なかなかドラマ制作に手間のかかる手法。