ユネスコ記憶遺産に南京事件資料が登録されたことを受けて、そこここで話題になっている通州事件。中国人の軍隊による日本人の虐殺ということで、あたかも相殺できるような主張もされている。
たとえば登録発表の直前、日本会議支部のブログに下記のような主張が掲載されていた。後半の主張など、登録後の日本政府の行動にもうりふたつ。
http://ameblo.jp/nihonkaigi-yachiyo/entry-12081752968.html*1
今回の捏造記憶遺産申請が通った場合、日本は「通州事件」を世界記憶遺産に登録申請するべきです。
いや、是非ともそうしていただきたい。
支那がいかに残虐であったか、捏造ではなく本当の事実を世界に知らしめるべきなのです。
「チベット虐殺」、「ウィグル虐殺」、「文化大革命」、「天安門事件」など支那が引き起こしてきた事件は、数えあげれば枚挙にいとまがありません。
むこうが「慰安婦・南京大虐殺」で来るならば、こっちは半沢直樹のように「倍返し」してやればよいのです。
他方で歴史捏造に加担したユネスコに対しても、日本の分担金の支払いを凍結するなどの制裁措置をとるべきしょう。
しかし、ひとつの問題に対して加害と被害の関係が逆になった別の問題があるならば、それはふたつの問題があるということ。問題がなくなることを意味しない。
さらに通州事件の実態を見れば、日本という国家が正当性をうったえられるようなものではない。
通州事件(つうしゅうじけん)とは - コトバンク
1937年7月29日に日本の傀儡政権で北京のすぐ東の通州にある冀東(きとう)防共自治政府の保安隊が挙兵し,同地の日本軍人や居留民を襲撃・殺害した事件。蘆溝橋事件ののち日本軍が7月28日に華北で総攻撃を開始すると,日本軍飛行機は通州の近くの中国軍兵営を爆撃するとともに通州保安隊兵舎を誤爆して死傷者をだした。通州の保安隊のなかにもかねて抗日救国の意識が広がっていたが,この事件で刺激されて翌29日未明に挙兵した。
中国人といっても日本に抑圧されていた傀儡軍の反乱であった。当時や現在の中国政府に責任を問うことは無理がある*2。それを日本では当時も現在も中国全体への反感を扇動する宣伝に利用している。
もちろん国策を左右できない末端の民間人は被害者だろうが*3、逆にいえば日本の国策でそこにいなければ犠牲にならなかったろう。
しかして、こうした事件の実態をきちんと作品にもりこみ、ていねいに映像化できたならば、それはそれで良い映画になりうるのではないか。
そんなことを、台湾で霧社事件を映画化した『セデック・バレ』を見ながら思った。日本の占領から事件までを描いて完結している「第一部:太陽旗」がGYAO!で無料配信中。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00339/v08689/
アメリカ西部開拓を先住民側から描いたような作品で、約2時間半の尺ですら足りないと感じるほど内容は濃密。非常によくできた映画である。近い時代を映画化した近年の邦画とくらべて、制作者の作家性が潤沢な制作費に支えられ、それが作品の完成度につながっているように見える。
通州事件と霧社事件のちがいといえば、日本側に誤認が見られること。中国は残虐で日本へ敵意をもっているから虐殺をすると考えて、台湾は植民地化を歓迎して感謝していたから反乱など起こさないと考える。だから『セデック・バレ』は一部で反日映画などと評されていた。
しかしどちらも日本が植民地化した地域で現地人が反乱を起こし、民間人をふくむ日本人が殺された事件であるところは同じだ。占領から居留、そして誤爆から事件、戦後の処理まで通州事件を映像化できれば、同じように日本の過去を切りとる映画になりうるだろう。