法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『報道特集』でインドネシア慰安所が報じられた

インドネシアでの戦時性暴力」と題して、生存した被害者の証言と、利用した加害者の証言、さらに中曽根康弘元首相の慰安所開設問題を報じていた。
インドネシアでの戦時性暴力 | 報道特集 : TBSテレビ
まずTV番組としてがんばっていたのが、元首相への追及。慰安所を開設したという過去の手記と、娯楽設備にすぎないと説明した2007年の外国特派員への会見*1、その後に発見された軍内部資料の「土人女」を集めたという記述*2といった説明をおこない、中曽根事務所へ質問状を出した。事務所は2007年の会見がすべてだと回答したそうだが、その不誠実さは視聴者にわかりやすい。
また実際に慰安所にいった日本兵も証言する。最初は淡々として、少しずつ顔を赤くして興奮していく姿が印象深かった。慰安婦にされた女性を「公衆便所」にたとえたのは聞いていて気分が悪くなったし、社会の犠牲として兵士と女性を同列にならべていたのは正しくないが、加害者と認識されることを理解しての出演ではあるだろうし、貴重な証言のひとつであるだろう。
さらに現地調査をつづけているオランダ人の女性の助けで、番組は被害者に接触することができた。当時14歳だった被害者は慰安所に入れられることなく、かわりに18歳の姉たちが日本の軍人*3につれていかれた。それから慰安所の姉に弁当をはこんでいた被害者だが、ある日むりやり「慰安」の対象にされてしまったという。そのことは家族にも話してこなかったが、しかしオランダ人を「娘」のように思っているからと、カメラの前で証言した。


全国枠の視聴しやすい時間帯で、ここまで現在の政治家個人との関連を指摘しながら日本軍慰安所を特集しただけでも、報道としての価値はあるとは思う。アジア女性基金のような中途半端な支援事業すら個々の被害者に向けられなかったという説明もされていた。
そうした良さがあってなお残念なのが最後のまとめ。政治性がない調査によって被害者へ取材できたといった表現をして、あたかも過去に報道できなかった原因が取材協力者の政治性にあったかのようにいう。加害国側の男性である自分にはできないといった表現もしていた。
見逃した前回の台湾慰安所でも同種のまとめだったようだが、男性では取材が難しかったなら女性記者もいたはずだし、被害者によりそって歴史認識にまつわる調査をして政治性がないはずはない。社会に影響をおよぼす行動は政治そのものであり、政治性がないという評価は社会に影響しない報道にとどめたいと自白しているようなものだ。

*1:Bloomberg - Are you a robot?

*2:「土人女を集め慰安所開設」/中曽根元首相関与示す資料/高知の団体発表

*3:軍服を着ていたという根拠を被害者は答えている。軍服を完全に見わけることができたかまでは判然としないが、たしかにインドネシアでは軍人による直接募集があったと考えられている。