法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

アウシュビッツで強制労働がおこなわれたことを認めながら、軍艦島では給料が出ていたからと強制労働を認めない人々

世界遺産の負の側面をめぐって、あいかわらず日本政府がよくわからない見解を出している。
http://www.47news.jp/CN/201507/CN2015070601001965.html

 政府は6日、世界文化遺産登録が決まった「明治日本の産業革命遺産」に関し、朝鮮半島出身者が一部施設で「労働を強いられた」とした5日の日本政府の陳述は「強制労働」を意味しないとの対外説明を本格化させた。違法性を帯びる「強制労働」を日本が認めたとの印象が広がれば、韓国で元徴用工の請求権問題が蒸し返される可能性が高まると判断した。

どのように「労働を強いられた」と「強制労働」の違いを説明するのか、さまざまな理屈がひねりだされている。


そうした強制労働を否認する意見に、ひとつ興味深いものがあった。[twitter:@archilys]氏のツイートだ。

ツイッターでは似たような主張をいくつも見つけることができる。[twitter:@Shinsuke1]氏のツイートなどが典型だ。

これは世界遺産委員会において韓国が比較したという産経報道も、似たような主張が出てくる一因だろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150705-00000539-san-kr

軍艦島」の通称で知られる端島炭坑長崎市)をナチス・ドイツによるアウシュビッツ強制収容所と比較して、他国に理解を訴えたという。

記事に対して、ツイッターと同じようなブックマークコメントがついている。
はてなブックマーク - 世界遺産登録問題 韓国、土壇場で「強制労働」に固執か…ナチス収容所と比較も (産経新聞) - Yahoo!ニュース

id:ka_ko_com 世界遺産問題、ナチスの収容所だとか言っていたらしい。日本人も一緒に働いて給料も出てたのにアウシュビッツだとか言いがかりだろう。 …… 世界遺産登録問題 韓国、土壇場で「強制労働」に固執か…ナチス収容所と比

産経報道をもとにした2ちゃんねるスレッドでも、給料をもらえていたからアウシュビッツとは違うという反応が散見される。
【世界遺産】韓国、軍艦島の端島炭鉱ををナチス・ドイツのアウシュビッツ強制収容所と比較し他国に理解を訴え©2ch.net

29 :<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん@転載は禁止:2015/07/05(日) 20:51:44.95 ID:8hKqNLbC
へーアウシュビッツって給料もらえてたのか

49 :<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん@転載は禁止:2015/07/05(日) 20:53:23.49 id:ytnJh6Cp
どうして、給料もらえてんだよ!!!!!


50 :<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん@転載は禁止:2015/07/05(日) 20:53:30.74 ID:8xUX5IBt
アウシュビッツは給料払ってくれたのかw

こうした書き込みがコピーサイト「2ch.sc」をとおして転載され、さまざまなところに拡散されている。


強制労働という言葉についての誤認は、すでにApeman氏に批判されているとおり。
じゃあいったい「強制労働」とはなにを意味するんだろう?(追記あり) - Apeman’s diary

「金をもらったんだから性奴隷じゃない」論と同じですね。日本軍「慰安婦」にせよ強制動員された朝鮮人労働者にせよ、事実の問題として報酬などもらえなかったケースが少なからずあることはおくとして、「無報酬」であることは「強制労働」の定義にも「性奴隷」の定義にも含まれていません。

くわえて、給料がはらわれていたから違うという主張は、アウシュビッツについても事実誤認をしている。
ユダヤ人虐殺の理由・アウシュビッツ強制収容所;鳥飼行博研究室

ゲットーに押し込まれたユダヤ人たちは,ゲットー外部に労務者として派遣され,建設,清掃,工場の労働に従事した。ゲットー内部に賃金労働は限られていたから,ユダヤ人はたとえ報酬が僅かであっても,労役に従事するしかなかった。

米国ホロコースト記念博物館にも同じような記述がある。
http://www.ushmm.org/outreach/ja/article.php?ModuleId=10007732

ユダヤ人の強制労働収容所が占領下のポーランド全域に設置され、ゲットーのユダヤ人は仕事のためにドイツ占領当局に出頭することを義務付けられます。通常は、厳しい状況下で1日10時間から12時間、わずかな賃金か無償で働きます。

そう、ナチス強制収容所の強制労働においても、まったく給料が出ていなかったわけではない。
ただ暴力と恐怖のみで労働させるより、ずっと効率的な強制がおこなわれていたのだ。


賃金がしはらわれたとしても、強制労働でなかったことの充分条件ではない。
しかしこの事実は、ホロコースト否定論にも利用されている。一例として、ドイツのシュピーゲル記事に対する木村愛二氏の解釈がある。
aku1027 ホロコースト大嘘の証拠となる「低賃金事情」ドイツ・シュピーゲル記事が米研究所から到来

 記事の見出しは、「ナチ・ゲットー(収容所)の労働者は再び騙された」である。当時の低賃金に加えて、現在のドイツの法律による補償も少ない、というのである。今なら禁止の年齢の「児童労働」もあったとしている。

 この記事の主旨は、ナチの収容所の「強制労働」批判である。ところが、収容所または集中宿舎とし、強制収容所、さらには絶滅収容所として、ユダヤ人の民族的な絶滅のために、ガス室を設けたとする説とは、矛盾するのである。

 いわゆる強制収容所が、直訳すれば集中宿舎で、絶滅政策どころか、当時のドイツが労働力不足で、ユダヤ人、ポーランド人、ロシア人を、地下の航空機生産工場などで、使用し、賃金を払っていたことに関しては、電網無料公開の拙著『アウシュヴィッツの争点』、拙訳『偽イスラエル政治神話』を参照されたい。


ナチスドイツの強制収容所と、大日本帝国産業革命は、もちろん何もかも同じというわけではない。なりたちに違いがあるし、差別のあらわれも、戦後の歴史認識も違う。問題を理解するためには、それぞれの普遍性と固有性を知らなければならないだろう。
しかし問題性を否定する理屈は、鏡うつしのように似ている。せまい知見で否定しようとして選択的に知識を集めるためだろうか。それとも相対的に正当化するために一方を観念的に悪魔化するためだろうか。いずれにせよ、自認するほどには歴史に通じていないことは明らかだ。
しかも、そのように過去を正当化する理屈は、そのまま現在の問題にも当てはまる。ゆえに、正当化する理屈が詭弁にすぎないと批判するのは、現在に生きる私たち自身のためでもあるのだ。