法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

絵に描いたような植民地主義が絵に描かれていた

星海社のWEBメディア「最前線」に掲載されている『まりんこゆみ』。
『まりんこゆみ / Marine Corps Yumi』著者:野上武志 原案:アナステーシア・モレノ | 最前線
主人公の女子高生の視点から、1頁単位で“アメリ海兵隊”の豆知識を描いていく漫画作品である。


2015年1月に公開された第101回で、沖縄アメリゴ軍基地のゲートガードが登場し、対応すべき相手として基地反対運動が描かれていた。
『まりんこゆみ / Marine Corps Yumi』第101回著者:野上武志 原案:アナステーシア・モレノ | 最前線

「ヒートアップして事故ると大変なので ソフトな対応を心がけます」と2コマ目に書かれている。
しかし2月、沖縄米軍基地において、反対運動側で「ヒートアップ」を抑えようとした人が逮捕された。
社説[刑特法で2人逮捕]信じ難い不当拘束 なぜ | 社説 | 沖縄タイムス+プラス

キャンプ・シュワブゲート前で抗議行動を展開していた沖縄平和運動センター議長の山城博治さんともう1人の男性が22日朝、米軍の日本人警備員に拘束され、米兵によって後ろ手に手錠をかけられ施設内に連行された。

状況が過熱してきたことから山城さんは、不測の事態を避ける意味で、提供施設の区域境界を示すラインから下がるよう、抗議団に呼び掛けた。

 米軍警備員が山城さんを拘束したのはその直後のことだ。目撃者によると、山城さんがラインの内側、つまり基地内に入っていたのは、距離にしてせいぜい「1メートル弱ぐらい」である。にもかかわらず米軍警備員は突然、山城さんに襲い掛かり、倒れた山城さんの両足をつかんで無理矢理、基地内に引きずり込んだ。あきらかな狙い撃ちである。

この社説に書かれた状況は、後に米軍基地から「流出」した映像とも矛盾しない。
辺野古動画流出 在沖海兵隊幹部を処分 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース
これが「ソフトな対応」だというなら、笑えないアメリカンジョークだ。


それに4コマ目の「どっちもウチナンチューなのにー」という台詞は、どのような視点で書かれたものか。
ナチスドイツの強制収容所でもカポと呼ばれるユダヤ人を使っていたし*1、中国政府はチベット分断統治パンチェン・ラマへの信仰を利用してきた*2
同じ構図は沖縄米軍基地でも見られる。
国、辺野古抗議監視の地元職員を監視 東京から要員 - 琉球新報 - 沖縄の新聞、地域のニュース

米軍キャンプ・シュワブ前で新基地建設の反対運動を続ける市民らを、24時間態勢で監視している沖縄総合事務局開発建設部の職員に対し、国が指示通りに動いているか確認するための担当者を東京から現場に派遣していることが13日、分かった。

この「どっちもウチナンチューなのにー」は分断を強いている側の台詞でしかないし、そう描かなければならない。


さらに続けて、米軍ならぬ「アメリゴ軍」が沖縄を守っているのに反対運動が起きているとして、「イミワカリマセン」「たんたんと」というエピソードが描かれている。


ここで抗議の動機として想像されているのは、騒音や軋轢といった迷惑問題や、内容がさだかでない立場や心情、基地がもたらす恩恵のみ。
抗議者には、主人公の対となる少女の姿や、取材対象を想起させる姿が与えられることはない。固有の名前を持たず、意見を言語化することもない群衆として描かれるだけ。
この漫画からは、積もり積もった歴史の長さはわからない。沖縄の民意が選挙で何度となく示され、それが無視されている現状もわからない。


ちなみに『まりんこゆみ』原案のアナステーシア・モレノは元海兵隊員で、はてなダイアリーも持っている。
Manga Gunkan (マンガ軍艦)
インタビューされた記事の転載エントリによると、プロフィールは下記のとおり。
インタビュー:百合翻訳者アナステーシア・モレノさん - Manga Gunkan (マンガ軍艦)

日本とフィリピンのハーフで(国籍はアメリカ)、沖縄で生まれ育ちました。子供のころは兄8人と日本のテレビばかり見てて、特にうる星やつらガンダムなどのアニメを見てました。高校卒業後、アメリカのアリゾナ州立大学に数年ほど行きましたが、けっきょく中退して海兵隊に入隊しました。沖縄に配属されて、航空自衛隊の方と結婚しました。海兵隊を名誉除隊した後、公務員になり、在日米軍基地などで勤めています。現在横田基地にいます。

たぶん海兵隊の主観において嘘はついていないのだろう。それを知るにおいて興味深い作品ではあった。