法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『幸福の黄色いハンカチ』

山田洋次監督による1977年の作品。主演した高倉健の追悼企画として、2014年11月28日にデジタルリマスター版がノーカット放映された。
金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ
その録画で初めて作品を視聴したのだが、先入観とは全く異なる映画だった。
もっと辛気臭いと思っていたし、出所して帰宅するまでのロードムービーだろうと思っていた。


実際は、北海道へ旅をしにきたチャラ男が、同じように傷心旅行していた女性をナンパ。ふたりで気楽な旅を始めようとした時、写真撮影をたのんだ男を同乗させてやる。
そこから前半は完全に自動車に乗った珍道中。男が出所した場面を観客は見ているが、それを表に出さず物語が進んでいく。若い武田鉄矢のゲス演技がさえわたり、『男はつらいよ』のような人情喜劇よりも能天気。
作品をとおして最も危機感にあふれているのが、自動車の運転にまつわるトラブルというせせこましさ。ちなみに劇中では女性の運転下手がピックアップされているけど、私の運転技術とたいして変わらないし、それが身につまされて見ていて困ったし、この作品を撮影していたころの武田鉄矢は免許を持っていなかったらしい。


後半になって高倉健が演じる男の背景が明かされ、その不器用な半生が描かれるものの、それが物語の主軸に移るほどではない。自分を変えようと思いつきで九州から北海道まで移ってくるあたり、武田鉄矢高倉健の無軌道ぶりに大差はない。
あくまで物語の視点は武田鉄矢側であり、助けた男に影響されていくドラマも武田鉄矢側のものだ。帰宅した高倉健を妻が待っている場面が、この作品では珍しく引いた構図ばかりなのも、武田鉄矢の視点と思えば納得できる。


この作品は贖罪のドラマではない。ほとんど刑務所生活は画面に出てこないし、そもそも罪を犯した場面もよくわからない。復帰を支える人々、帰りを待つ家族、そうした周囲の暖かさを描いている。
誤解をおそれずにいえば、高倉健になることは難しいが、武田鉄矢には今からなれるのではないか。そういう映画だった。