法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『イグジステンズ』

1999年のデヴィッド・クローネンバーグ監督作品。仮想現実ゲームの発表会に始まるサスペンスを描き、ベルリン銀熊賞を受けた。
現実至上主義やライバルゲーム会社といった複数の思惑がいりみだれながら、基本的にゲームデザイナーの女性と巻きこまれた男性の葛藤に集約され、最後まで見れば全て納得できる。
銃撃戦やゴアシーンでアクション面も充実。3DCGで描画された突然変異生物は前世紀のVFXながら充分に生々しく、虚構と現実をあやふやにしてくれる。特殊メイクやプロップもまずまず。
97分の短い尺でも情報の過不足なく、きっちり娯楽としてまとまっていた。


生体部品で作られた脈動するゲームパッドや、その素材となる突然変異の両生類、ゲームを接続するため肉体に穴を開ける場面など、仮想現実ゲームを題材としながら小道具が生々しい。クローネンバーグ監督らしいグロテスクなデザインワーク。
しかし物語は、多重構造の仮想現実を描きながら、オーソドックスな仮想現実SFとして、きちんと整合性がとれている。骨と歯で作られた拳銃という悪夢のような小道具すら、検査をかいくぐるためという合理性が説明された。
ゲーム関係の生々しいデザインも、現実至上主義とゲームの対決という構図から必然性あるということが、物語が進むにつれて判明していく。


もちろん説明ばかりという印象もない。現実至上主義によるテロリズムで幕を開け、たった2人で敵味方のわからない逃亡をはじめる展開で、緊張感をたもちながら自然に設定を説明していった。
結末は仮想現実SFとしてベタな部類だが、ゲーム内で描かれた出来事を伏線に、きっちりサスペンスとしての落とし前をつける。