法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

水面を立って滑るように移動する描写は、きちんと演出すれば魅力的になるはず

艦隊これくしょん -艦これ-』の宣伝PV発表時、このまま描写するのかと不安視されていた。

はてなブックマーク - 艦隊これくしょん -艦これ- 先行PV第壱弾
はてなブックマークを見返して目に止まったのが、下記のやりとり。

id:xr0038 あら意外と低評価/戦闘シーンは公式ノベライズがこんな感じの描写だったので特に違和感は感じなかったかな/id:zatpek 僕もそのメモを読んで心躍ったことを思いだしました youtube 艦これ アニメ
リンク2014/08/04

id:zatpek うねりを越えて砲撃、のあたりかっこいい。しかし航行描写にもう一工夫欲しい感じ。なんかこういうの→ http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=manga&illust_id=37835599 /id:xr0038「細部の神様」に降りてきて欲しいですねえ…
リンク2014/08/04

他のコメントを読んでも、先行する公式派生作品をふまえた描写ではあるらしい。それにアニメは引きずられただけで、映像としての自然さを軽視してしまったのかもしれない。
比べて、艦娘を艤装や艦橋にあたると解釈して、船体をサーフボードにするという今井哲也氏の案は、なるほど比較的に映像としては自然になったろう。

艦これメモ by 今井哲也 on pixiv


しかし、すでにTVアニメで同様の水面移動を、ずっと魅力的に描写した作品がある。世界的に有名な漫画が原作の『NARUTO-ナルト-』だ。
あらすじの巻
特に第133話「涙の咆哮! オマエはオレの友達だ」の、松本憲生作画による誇張された表面張力のリアリティは今でも一部の語り草になっている。水中にカメラを置いたり、格闘で水面下に叩きこまれたり、その沈んだ穴から一拍をおいて泡が湧いたり、水面だからこそ可能な演出にこだわった若林厚史コンテともども、現在でも見る価値は高い。
もちろん手描き作画をそのまま3DCGで再現することは難しいが、参照できる前例をふまえるだけでも違うだろう。たとえば高速移動の水飛沫は大きいほうが見ばえするし、静止した状態なら波による上下動を誇張したほうが水上らしさが表現できる。


また、もともと『NARUTO-ナルト-』では忍者修行で水面に立てるようになるまでを描いたエピソードがある。アニメスタッフ内部でも、視聴者をふくめても、水面に立つ世界観を共用できているのは大きいだろう。
艦隊これくしょん -艦これ-』の第1話が主人公の視点でざっくり各種設定を説明していき、初出撃による課題を提示するまでで終わったのは、構成としては定石的で外せないだろう。しかし訓練をつづける第2話で、どのように水面に立って移動できているかを視聴者へ感覚的につたえる描写はできたはず。せっかく水上移動が下手だという個性を主人公が持っていたのだから。その回想で、どのように初めて水面に立ったかを思い出しても良い。


問題は水面移動にかぎらない。原作や派生作品の表層から外れないよう注意しながら、その表層の個性をまるめる方向でアニメ化している印象がある*1
わりと物語構成は戦闘少女物として定石的だが、それゆえ正解のないビジュアル部分を不明瞭なままにしていること、基盤のいびつな部分が隠されていることが浮きぼりになる。提督の不在が象徴的だ。いびつさを描くことを避けているため、今のところ魅力へ昇華することもできていない*2
出撃時に武器をとりつけられる場面も『サンダーバード』の引用で機械的にすますのではなく、たとえば暗闇から何者かの白い手が無数にのびてきて、重い武器を少女に背負わせる……くらいのオカルト描写にすれば、先行作品にない個性が生まれたろう。せっかく魂や妖精が存在する世界観なのだから。重そうな武器を制服や素肌に直接つけるいびつさも、メカニカルな実体とは違うと描けば、違和感が軽減するだろう。それにそれくらい明確にグロテスクに描いたほうが、自覚的な作品と感じられて安心できるわけだが、それはまた別の話。

*1:あいかわらず原作ゲームにはふれていないが、いくつか派生作品は読んだ。

*2:第3話に対するインターネットの反応を見ていると、いびつさを少しでも残すことが人気商売として危険な現状もわかるが。