法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『大いなる陰謀』

ロバート・レッドフォード監督および主演による、2007年の米国映画。アフガニスタンにおける米国の小さな軍事行動を、約1時間半という短い尺で、三つの立場から描いた。


少しばかり戦闘もあるが、あえてジャンル分けするなら議論映画もしくは対話映画といったところか。終わらせることの難しい戦争が再び始まっているかもしれない、その予感が流れる一日を淡々と描いていく。
上院議員に呼ばれたオフィスで、大学教授と向きあう教官室で、閉ざされた雪山で、ほとんど一対一で対話がおこなわれる。どれも閉鎖された空間で、情報や立場の不均衡をくつがえすように会話劇が転がっていく。それなりに戦闘描写の質は高く、雪山にとりのこされる状況も珍しいが、期待していいほどの分量ではない。
そうして描かれる軍事行動は、誰もが知っていて止められない現実の象徴だ*1。あくまで政治的なパフォーマンスであり、その情報をリークされたままスクープとして流しても上院議員が喜ぶだけ。かといって流さなくても他のメディアにリークされるだけだろう。たとえ批判的に報じたとしても、社会が興味をもたなければ無力であることが、大学教授と学生のやりとりで示される。


テーマ設定からして明確な結論を期待してはいけない作品だが、それでも結末は拍子抜けした。雪山における戦闘の顛末を結末にもってくれば、もっと映画らしいまとまりを感じられたかもしれない。
しかし途中の会話劇がかなり良く、見ている時は中だるみを感じなかった。一方が相手を追及するような展開にならず、きちんと互いの言説を問いただしあっていく。主題がそのまま台詞となっていても、それぞれの登場人物に人格が感じられるし、どこに議論が落ちつくか先行きが気になる。もちろん監督が演じる教授にも批判の矛先が向かうので、社会問題を他人事のように断罪する驕りを感じさせない。


ロバート・レッドフォード監督作品は初めて見たが、そう古臭いと感じることもなく、良い意味でベテランらしい落ち着いた画面が好印象だった。
検索してみると、リンカーン暗殺にかかわって死刑となった女性を描く『声をかくす人』がGYAO!で配信されるらしい。余裕があれば視聴してみる予定。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00657/v09895/

*1:白昼のもとにおこなうことこそが目的なので、邦題にあるような「陰謀」とは少し違う。劇中の台詞にも出てくる原題『Lions for Lambs』……ライオンが導く羊の群れ……のような、社会の動きを表現するような邦題にしてほしかった。