法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『撃墜 3人のパイロット〜命を奪い合った若者たち〜』

十五年戦争で戦った実在する3人にスポットを当てた、ドキュメンタリードラマ前後編。中国、日本、米国、それぞれのパイロットが撃墜を連鎖していった。その最後に生き残ったパイロットの視点で語っていく。
http://www4.nhk.or.jp/gekitsui/
8月にBSプレミアムで放映されたが*1NHK地上波で11日と12日に放映した。


まず前編は良かった。愛媛県沖で引きあげられた紫電改の残骸にはじまり、そのパイロットの人物像をさぐっていく。その流れで最初に米国の視点が、次に中国の視点が描かれていく。
日本のパイロットは兵学校へ進んだ弟に対して、叩きあげの立場から信条を叩きこむ。敵を撃つことに迷うな、と血走った眼で語る……そこから初出撃した南京で撃墜した中国のパイロットの物語が始まる。
日米の両軍を相対化するドラマは少なくないが、中国の視点がしっかりあるドラマは珍しい。それも抗日のため大学をやめて国民党軍へ入った、固有の顔をもつ撃墜王だ。最後に撮った写真は、大家族の中心で大きな体が邪魔にならないよう三角座りする姿。その純朴そうな表情が忘れられない。
見合いの席では格好悪いふるまいをして、それが逆に好感を生むような日本のパイロット。相手を妻とした後も、家族として大切にしていた。そうした真面目な青年が、どれだけ大切なものを敵から奪ったか、どれほど大切なものを心から失っていたか、それを印象づけて前編は終わる。


比べると、後編はよくできているが、特筆したいところがない。前編で国外へと広げた視野を、国内の夫婦のドラマとして閉じてしまった。台詞どころかBGMまで抑制して、仕草や情景を積み重ねて心情を表現していくドラマそのものは素晴らしかったのだが。
せめて前編に米兵視点で語られた、「天皇」に対する服従と忠誠が身についた日本兵と、一人たりとも見捨てない米兵の対比を、後編で掘りさげるとか。あるいは前編と後編で描いたことを逆にして、わかりやすい入り口から視野を広げる順序にするとか。もっと語れる部分はあったはずだ。
印象に残ったのは、パイロット三者三様の後日談くらい。抗日英雄だったはずの中国のパイロットなどは、1990年代にようやく名誉を回復したという。それまでは終戦直後の国共内戦で忘れられ、文化大革命によって墓まで壊されていたそうだ。


資料映像を多用しつつも、映像は前後編とも良かった。三ヶ国でロケした風景はそれぞれの時代らしく、服装や美術も適度に古びさせている。
VFXは3DCGアニメーター栃林秀が担当。『永遠の0』をはじめとして、さまざまな邦画に空中戦のCGを提供しているだけあって、最低限のクオリティは保っている。広々とした空を飛びまわるカメラワークや、弾道の軌跡で見せる空間表現は素直にいい。
地上の待機中もふくめ、ほぼ個人技のCGで統一しているおかげか、質感の変化も気にならない。撃墜された紫電改が海に没する場面など、CGながら水の質感が悪くなかった。