法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『新しき世界』

現代的な組織へ脱却しようとしている暴力団があった。しかし三勢力による跡目争いが始まったことを機会として、組織を壊滅させるよう潜入警官へ指示がくだる。その作戦の名前こそが「新世界」。
組織へ同化しながら、潜入警官は数奇な運命をたどっていく。


2013年の韓国映画。尺は2時間15分と、やや長め。
済州島への差別意識や、中国系勢力との反目など、いかにも朝鮮半島らしい要素もあるが、物語としてはギャング映画やヤクザ映画のそれと比べて、強い目新しさがあるわけではない。
かなり展開は単純で、予想した範囲を超えることはない。はじまりが星新一ショートショートのようだと思っていたら、その星新一ショートショートのように終わった。しかし、とにかく基本に忠実で、描写に無駄がなく、設定を使い切る。最初は三勢力のうち有力な二勢力が戦うが、その一方が力を失えば残りの一勢力も存在感を出してくる。その抗争劇に警察の潜入捜査が刺激を与えつづける。


何より、映像が端正にして淡青。
もちろん物語は流血と暴力でいろどられているわけだが、冒頭のコンクリート詰めリンチからして青々とした海原を背景に、静かな構図で突き落とされる。葬儀の場面になっても左右対称の構図が印象的で、潜入警官が上司とひそかに会う釣り堀は神聖な雰囲気すらただよう。
組織が現代的に脱皮しようとする設定を反映しているのだろうか、ジャンル映画としては暴力が少ない印象があった。もちろん必要最小限の抗争は描かれ、エレベーターが血の海になっていくさまを俯瞰で撮影しつづけるカットは迫力あったが*1、もっと動きのある場面が多くても良かったか。

*1:日本漫画原作の韓国映画オールド・ボーイ』の横位置からの1カット無双を少し思い出したら、同じ撮影スタッフらしい。作品の感想エントリはこちらだが、そのカットへの言及はしていない。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080411/1207946784