法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ホメオパシーの大会に見る、オカルトからナショナリズムへの接近

ホメオパシー、もしくは同種療法。現代的な医療が発達するより前に考案され、やがて効果がないことが判明した、西洋の治療法。
同種の非科学的な治療法においては、比較的に無害であることもあってか、現代でも民間療法として生き残っている。ただし現在では現代的な医療と衝突して治療をさまたげることがしばしばあり、乳児死亡事件なども引き起こした。
アピタル(医療・健康・介護):朝日新聞デジタル
それを推進する日本ホメオパシー医学協会、略称JPHMAが毎年ひらいているコングレスの第14回で、自由主義史観研究会藤岡信勝氏が呼ばれているという[twitter:@Lily_victoria]氏の指摘を見かけた。

開催された2013年当時にも少し注目されていたのだが*1、ふと思いついてJPHMAサイトから各年のプログラムを見たところ、徐々にオカルトからナショナリズムに近づく様子がうかがえた。簡単にまとめておく。


まずサイトに残る2011年の第12回から、日本文化を賞揚するアトラクションが目立つ。
JPHMA ホメオパシー国際チャリティーカンファレンス*2
もちろんアトラクションや、招待された和太鼓等の文化まで否定したいわけではない。しかし神事までくみこんでいることには、ナショナリズムと宗教の隣接したものとして気にかかる。

アトラクション
釜鳴神事

参考:釜鳴神事について

このアトラクションは2012年の第13回もプログラムで確認できる。
それでも、この第12回までは広く欧米からホメオパシー関係者を呼んでいた*3。あえて日本文化にかたよったアトラクションも、国外に向けたものとしては違和感がない。
プログラムで事実上の最終イベントとなるフォーラムも、題目としては国際的に開かれた美しいものとなっている。

国際フォーラム
ホメオパシーの推進:動物・植物・虫・・・生きとし生けるすべての命の未来のために


2012年の第13回では、2011年につづけて東日本大震災を意識したプログラムとなっている。
第13回日本ホメオパシー医学協会学術大会【JPHMAコングレス】:開催のご案内
この第13回から国歌斉唱が明記されつづけていることもナショナリズムの問題からは気にかかる。イベントに必須の項目ではないだろう。

開会宣言、君が代斉唱、JPHMA活動紹介 祝辞、大会長挨拶

そして2日にわけて開催されるパネルディスカッションにおいて、言霊研究家にして大下氏をまねいている*4

パネルディスカッション
ホメオパシーはメタサイエンス Part1」
座長:大下伸悦
(言霊研究家)
演者:成瀬一夫NPO法人元氣農業開発機構 常務理事)、高野弘之(池尻クリニック院長 内科医)

パネルディスカッション
ホメオパシーはメタサイエンス Part2」
座長:大下伸悦
(言霊研究家)

事実上のオカルト、それも古代賛美な系統とのつながりが明らかにされた。しかし、メタサイエンスつまり科学ではないと本心から認めることができるならば、社会と共存できる道もありえたかもしれない。
ナショナリズムとは別問題の、ただの宗教との接近として興味深いのは、精神医療を批判するという小倉謙氏の講演だ。

学術発表:「心の病を科学する〜わが国の精神医療の実態と未来への提言〜」(仮)
小倉 謙
(市民の人権擁護の会 世話役)

「市民の人権擁護の会」という名称からではわからないが、これは新興宗教サイエントロジー教会*5の関連団体である*6。精神医療において人権が軽視されがちという批判をしたいならばこそ、わざわざ呼ぶべき団体であるかは疑問だ。
さらに、ドイツでホメオパシーを広めているというゾンネンシュミット氏も呼んでいる。この第13回で国外から来ているのはこの人物だけのようだ。

「ユーモアセラピーとホメオパシー 
〜ドイツの現状・笑いの大切さとレメディー」
ジーナ・ゾンネンシュミット
ドイツ国家認定医学治療家SMHP)

プロフィールページによると「東洋音楽伝統、インド研究、エジプト研究で博士号を取得」*7とのことで、これは専門家が思い入れをもった地域に傾倒しすぎてしまった、という問題なのかもしれない。


最初に注目された第14回のプログラムでは、大会前日に神社参拝を入れている。
プログラム|第14回JPHMAコングレス「愛とサイエンスの融合ホメオパシー〜愛は無敵〜」

明治神宮 参拝 ※要予約
明治神宮楽殿にて

おはらいをする文化そのものは否定したくないが、これもオカルトからナショナリズムへの接近という観点からは気にかかるところだ。
一方、キューバ共和国ホメオパシー関係者をまねいているところも注意したい。もともとJPHMAと関係が深いインド*8と同じく、ホメオパシーが伸長しているという。

ホメオパシーの立証:モデルとしてのホメオパシー予防
グスタボ・ブラチョ博士
キューバ共和国フィンレイ研究所ホメオパシーと生物療法プロジェクト代表)

貧困が代替医療を求める動機となる問題にも通じているようだ。
そして藤岡信勝氏の講演は、ホメオパシーに関係しないものとしては最後だ。

自虐史観を越える日本・歴史の真実
藤岡信勝
(拓殖大学客員教授
新しい歴史教科書をつくる会理事)

タイトルから考えると、たまたまホメオパシーに傾倒する著名人として呼んだのではなく、藤岡氏の歴史教育に対する主張を講演させることが目的のようだ。


そして2014年10月に開催される第15回のプログラムを見ると、国内来賓講演として特殊な愛国者が呼ばれている。
プログラム|第15回JPHMAコングレス「今こそ有事にそなえる 食、心、命 すべてにホメオパシー」
たとえば陰謀論者として一部で悪名高い、元陸将補の池田整治氏。

国内来賓講演
(仮題)「今こそ有事にそなえて」
池田整治
自衛隊幹部
(『マインドコントロール』著者、美し国副代表)

かつてホメオパシージャパンのサイトに陰謀論が掲載されていたことが2010年にも話題になっており*9、登板そのものは意外ではない。
かつて「ねずきち」というハンドルネームで悪名高かったブロガーの、ねず氏も呼ばれていた。

国内来賓講演
(仮題)「今こそ有事にそなえて」
小名木善行
日本の心をつたえる会代表
『ねずさんの昔も今もすごいぞ日本人!』著者

ここで2013年に彩雲出版から書籍を出していたことを初めて知った。書影の帯を見たところ、中山成彬議員が推薦の言葉をよせている。
そして国内来賓講演の最後に、満をじして田母神俊雄氏が登場。

国内来賓講演
(仮題)「今こそ、有事に備えて」
田母神俊雄
航空幕僚長

よく知られているようにアパホテルに応募した論文で注目され、日本軍を擁護するため無理やり陰謀論をつなぎあわせたことで批判をあび、自衛隊をやめざるをえなかった人物だ。
講演の仮題がどれも「今こそ、有事に備えて」であることから、JPHMA側がホメオパシー普及を超えた内容を求めていることもうかがえる。


ここ数年のプログラムをながめていくと、かつては国際的に開いた大会にしようとしていた。日本については、休憩的なイベントで文化を推していただけ。それが急激に排外主義的なナショナリズムに傾倒していった。
傾倒の動機は想像するしかないが、さまざまな事故を起こして世界的な批判をあび、開かれた装いをつづけることが困難になった結果なのかもしれない。あるいは生き残りをかけて、国内で政治的な力がある反学問思想との協力を模索しているのかもしれない。
いずれにせよ、2011年のプログラムからは現在の姿は想像しづらい。それが一気に排外主義にまでいたってしまう恐ろしさは、何ともいいがたい。

*1:http://b.hatena.ne.jp/entry/jphma.org/congress2013/

*2:これ以降、枠線でくぎられたプログラムから引用するために、引用時に適当な改行を加えた。文字強調はおおむね原文ママ。一部のリンクは引用していない。

*3:講演者プロフィールを見ても、カナダ在住のオランダ出身者、オーストラリア、オランダ、インド、米国、英国と、かなり多彩な先進国から呼んでいる。http://jphma.org/congress2011/profile.html

*4:伊勢神宮奉納文神代文字保存会の代表でもある。http://hounoubun-hozonkai.com/index.php?hozonkai

*5:B級SF映画バトルフィールド・アース』で一部に知られているだろう。

*6:http://jp.cchr.org/about-us/what-is-cchr.htmlにも「市民の人権擁護の会(CCHR)は、1969年にサイエントロジー教会とトーマス・サズ精神医学名誉教授によって設立されました。当時、患者は施設に収容され、すべての憲法的権利、公民権、人権が剥奪されていました」とある。

*7:http://jphma.org/congress2012/profile.htmlただ私は、実際にそのような経歴なのかは確認できなかった。どのような業績かもはっきりせず、国内では代々医療関係の書籍しか翻訳されていないようだ。博士号を持っているとしても、金銭で購入したディプロマミルかもしれない。なおコメント欄で教示していただいたドイツ語版Wikipediaでは、音楽関係の著作が記載されている。http://de.wikipedia.org/wiki/Rosina_Sonnenschmidt

*8:2013年には日印の関係者が共同するかたちで大会を開いていた。http://jointconference2013.org/

*9:http://b.hatena.ne.jp/entry/www.homoeopathy.co.jp/press/20100113133323911.pdf