法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『夏葉と宇宙へ三週間』山本弘著

ある夏の海水浴場。突如としてあらわれた宇宙船へ、ひとりの少女が興味本位に近づき、追いかけた少年ごと吸いこまれてしまった。
ニンゲンが乗っていないと動くことが許されないという人工知能にたのまれ、ふたりは宇宙船の母星へと向かう。もちろんその冒険は安全ではありえない。
宇宙船を追いかけるのは、旧世代の人工知能群。その人工知能群は、滅びた文明のニンゲンに命令されたとおりに、あらゆるニンゲンを「幸福」にさせてあげようとしていた……


岩崎書店とSF作家クラブが組んだジュブナイルレーベル「21世紀空想科学小説」の第8弾。この物語はリドルストーリーだという説明が冒頭にあり、最後に少年が究極の選択にせまられることが示唆される。
てっきり押しつけられた幸福か、自分で決める不幸か、その選択肢だとばかり思っていた。そしてこの作者のことだから、リドルストーリー形式は、むしろ正解を明瞭にするための演出だろうと考えた。


もちろん押しつけの幸福をどうするか、小説の答えははっきりしている。幸福にさせる手法が、無理やり拉致してアンテナを脳に植えつけるというもので、そもそも悩ませるつもりはないのだろう。
宇宙船が母星へ持ちかえった小道具の正体も予想通り。宇宙船に隠されていた真実も、つじつまとして他にないだろうという落としどころ。
しかしリドルストーリーについては、「そっちで悩むのかよ!」と思わず突っ込んでしまった。やはり正解を明瞭にするための演出ではあったが、いかにも児童文学っぽい説教を描きながら、まさか強引に明るい空想科学小説としてしめくくってみせるとは。
宇宙船に少年少女が吸いこまれる時に固体化したり*1、オマージュやパロディといったもろもろで作者の趣味も出ていて、なんとも楽しい読み物ではあった。


なお、読みながら気になった酸っぱいサムゲタンは、やはり別料理の誤記だったらしい*2

*1:普通にヰタ・セクスアリスな性愛への興味も描かれている。イラストも多め。

*2:公式ブログのコメント欄でやりとりがある。http://hirorin.otaden.jp/e304386.html