法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

従軍慰安婦問題における読売新聞の支離滅裂

朝日検証以降、マスメディアもインターネットも朝日批判するそぶりでデマを流す競争をしている件について - 法華狼の日記で「(1)」を批判した読売新聞の従軍慰安婦問題検証*1だが、さらに意味不明なことになっていた。


まずは金学順証言をとりあげた「(2)」から見ていこう。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/ianfu/20140829-OYT8T50015.html*2

記事はこんな書き出しで始まる。

 〈【ソウル10日=植村隆日中戦争や第二次大戦の際、「女子挺(てい)身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかり(以下略)〉

 「日本軍に強制連行され、慰安婦にさせられた女性」という印象を前面に出している。

引用された部分には、連行した主体が日本軍だとも、強制連行とも書いていない。「印象」を勝手に読みとるのは自由だが、それを批判につなげるのは慎重さが必要だろう。
それに強要されたとして問題視されているのは「売春行為」だ。つまり朝日新聞は1991年からすでに、連行だけが問題ではないと報じていたわけだ。
読売検証の「(1)」は、下記のように朝日新聞を批判していた。それが「(2)」によって根底から崩れたわけだ。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/ianfu/20140828-OYT8T50022.html

97年3月31日朝刊の慰安婦特集では、吉田証言について、「真偽は確認できない」と記すにとどめた。さらに、「『強制』を『強制連行』に限定する理由はない」として、新たに「強制性」という概念を持ち出した。

 慰安婦問題に詳しい拓殖大藤岡信勝客員教授はこう批判する。

 「朝日はさんざん『強制連行』と書いていたのに、『強制性』が問題だと言い出した。完全にすり替えだ」

この「(2)」では、さらに読売検証の主張を根底から崩していく。

この記事にはつじつまが合わない部分がある。

 記事中、金さんが「十七歳(実際は16歳)の時、だまされて慰安婦にされた」と語ったと説明している。つまり、書き出しにあるように「『女子挺身隊』として連行」されたわけではないことを本人が証言しているのだ。そもそも工場などでの勤労動員を意味する挺身隊と、慰安婦はまったくの別物だ。

つじつまがあわないという解釈は、募集と連行を同一視しているためだろう。
これは従軍慰安婦を集める手段に詐術も使われていたことを1991年から朝日新聞が報じていた証拠だ。つまり1992年に否定されるまで朝日新聞の見解が吉田清治証言を根底にしていたという主張も、根底から崩れたわけだ。


読売検証は「(3)」で、河野談話では強制連行を認めていないと主張する。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/ianfu/20140830-OYT8T50004.html

日本政府は93年8月4日、元慰安婦へのおわびと反省の意を表明する「河野洋平官房長官談話」(河野談話)を発表する。しかし、河野氏が発表の記者会見で、強制連行があったかのような発言をしたこともあり、「日本政府が公式に強制連行を認めた」との誤解が広がり、問題はさらに複雑化していった。

仮に「強制連行を認めた」が誤解だとして、「慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」*3と正しく認識してもらうようつとめるべきといいたいのだろうか。そう国際社会にうったえることに、何の意味があるのだろうか。
さらに「(3)」は、あたかも読売より朝日に信憑性があるかのように読める文章を書いている。

 韓国紙・朝鮮日報は翌12日に朝日報道を記事で取り上げた。13日の社説では慰安婦の人数について、朝日と同じ「8万〜20万」との数字を紹介し、「その80%が韓国女性」だと指摘した。日本政府を提訴した元慰安婦らの原告団が、訴状で慰安婦の人数を「10万から20万人」としたことなどはあったが、朝日報道による信ぴょう性の補強で、慰安婦「20万人」説が拡散していった面は否めない。

 秦氏は、日本兵の数などから計算し、慰安婦は計2万人前後で、このうち朝鮮人は2割だと推定している。

 読売新聞は90年代初め、記事中で慰安婦について「20万人以上いたとも言われている」などと記したこともある。

いずれにせよ、より低い推計数を同時に報じていたこと、そもそも朝日が20万人説をつたえた唯一のメディアでないことが、「(3)」で明らかにされた。
ちなみに2万人前後という推計は誤りが指摘されている。はたして読売新聞は秦郁彦推計を無批判につたえたことについて、検証して訂正するだろうか。
秦郁彦氏の慰安婦数推計法の誤謬について(1):注記を追加 - 永井和の日記 - 従軍慰安婦問題を論じる


そして朝日検証のまとめ記事*4を批判するにいたって、読売検証は何を主張したいのかすらわからなくなっていく。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/ianfu/20140829-OYT8T50029.html

朝日記事は、吉田証言と、河野談話を切り離し、募集を含めて「強制」があったと認めた談話の維持を図る狙いがあるとみられる。

 しかし、河野談話が作成された93年の段階では既に、吉田証言の信ぴょう性に重大な疑念が示されており、政府が根拠として採用しなかったのは当然で、批判をかわすための論点のすり替えだとの指摘が出ている。

ここで「しかし」という接続詞を使う意味がわからない。河野談話と吉田証言が関係ないならば、朝日が切り離すことを批判できるわけがない。

朝日は今も、河野談話が強制性を認めたことを頼りに、「慰安婦として自由を奪われ、女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質」(8月5日1面論文)だと主張している。

そこは吉田証言と関係ないのだから、主張することに何ひとつ問題はないはずだが。むしろ「今も」という表現から、朝日検証で主張を後退させたわけではないと認めているかのように読める。

 朝日新聞には、吉田証言や軍・警察による「強制連行」を前提に行ったキャンペーンが、日韓関係の悪化や国際社会における日本の評判低下にどのように影響したのかについて、説明責任を果たすことが求められる。

 読売は92年半ば以降は、誤解を与えないように努めてきた。

 97年3月6日朝刊解説面の論説委員のコラムでは、「勤労動員だった『女子挺身隊』が慰安婦徴用のための“女性狩り”だと歪曲(わいきょく)された」と指摘。98年8月4日の社説でも、「女子挺身隊と慰安婦とは異なるものだというけじめをきちんとつけよ」と主張した。

読売検証では自社の影響力について説明責任をはたすつもりはないのだろうか。
現時点で、明示的かつ自発的に自社記事を撤回したのは朝日新聞くらい。それでも不充分と主張する他紙は、あたかも自紙より朝日新聞が信頼されるようつとめているように感じられる。